「文藝春秋」1月号の特選記事を公開します。(初公開:2021年1月6日)

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 2020年最も活躍した棋士といえば、誰もがその名を思い浮かべるだろう。弱冠18歳にしてすでに王者の風格をまとう、藤井聡太である。

 史上最年少となる14歳2か月でプロ入りした2016年から怒涛の勢いで勝ち星を稼ぎ、昨年は、棋聖、王位という2つのタイトルを得た。今年はそれらタイトルの防衛戦2つを控えると同時に、挑戦者として三冠、四冠を目指し、さらなるタイトル獲得にも挑もうとしている。

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「すでに棋士として完璧に近い」

 藤井二冠と同じく中学生でプロデビューし、「光速の寄せ」とも呼ばれる圧倒的な終盤力で最年少の21歳2か月にして名人位を獲得、一時代を築いた谷川浩司九段は、その強さを「すでに棋士として完璧に近い」と評する。

藤井聡太二冠 ©時事通信社

「負けん気の強さに集中力、絶妙な時間の使い方と、何より将棋への飽くなき探求心があります。たとえば、プロ入りした棋士が最初にもっとも戸惑うのが持ち時間の長さなのですが、彼はプロデビュー戦からその長さに完璧に対応していた。これが不思議で仕方ないんです」

 これまで、自身も膨大な数の対局を重ね、立会人としても数々の後輩棋士の将棋を見てきた谷川九段もそう言って首をかしげる。

 彼の圧倒的な強さを目にするとき、誰もがその若さを忘れてしまう。

「先日、大阪でB級2組の順位戦があって藤井二冠と将棋会館で会いました。ふだんの彼は和服を着ることもあり大人びた印象があるけれど、その日はスーツに黒いスニーカー姿。完璧な将棋を指すのでふだんは意識することすらありませんが、ああそうか、まだ革靴は履かないんだ。高校生なんだもんな、とスニーカーを見て我に返りました」