2020年の将棋界を振り返ってみると、年明け時点でのタイトル保持者は豊島将之竜王・名人、渡辺明三冠、永瀬拓矢二冠、木村一基王位だった。1年後の現在は、渡辺名人、豊島竜王、藤井聡太二冠、永瀬王座となっている。

 それぞれのタイトルの具体的な動きは以下の通りだ。

王将戦 渡辺明○―●広瀬章人(防衛)
棋王戦 渡辺明○―●本田奎(防衛)
叡王戦 永瀬拓矢●―○豊島将之(奪取)
名人戦 豊島将之●―○渡辺明(奪取)
棋聖戦 渡辺明●―○藤井聡太(奪取)
王位戦 木村一基●―○藤井聡太(奪取)
王座戦 永瀬拓矢○―●久保利明(防衛)
竜王戦 豊島将之○―●羽生善治(防衛)

タイトル戦は「勝率6割で防衛できる」

 直接対決を除くと、現在のタイトル保持者4名はタイトル戦で負けていない。このことから“4強”が他者を引き離した存在になっていると言えそうだ。平均的な対局者のレーティングを1500としているレーティングサイト(非公式)の数字でも、この4名だけが1900点を超えており(12月22日時点)、第5位の羽生善治九段ですら1850に届いていないのだ。

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ヒューリック杯棋聖戦ではついに初タイトルを獲得した(産経新聞社代表撮影)

 なお、レーティングの差が50あると、上位者の期待勝率が6割ほどになる。6対4なら、さほどの差でもなさそうだが、タイトル戦ではこの差が大きい。五番勝負なら3勝2敗の勝率6割、七番勝負ならば4勝3敗の5割7分1厘で勝つことができるからだ。永瀬は「6割で防衛できるのは大きいですね」とはっきり言っている。

 もちろん、レーティングの数字通りに結果が出るわけではないが、4強の傑出度を示す一つの指標ではあると思う。

 2021年のタイトル戦第一弾となる第70期王将戦七番勝負では、渡辺―永瀬の対戦が実現した。新年早々から棋界の1年を占う大勝負となりそうだ。

 改めて、2021年の将棋界で期待されるであろう出来事を挙げてみよう。

1、藤井聡太の更なる飛躍
2、女性四段の誕生
3、羽生善治タイトル100期

 昨年の記事と書いていることがまったく一緒だと言われそうだが、世間的な注目を集める出来事として、この3つを外すわけにはいかない。

初防衛戦には3分の2以上が失敗している

 昨年、二冠を奪取した藤井の活躍については今更触れるまでもないが、三冠の実現はやや先だ。次のタイトル戦出場は自身初の防衛戦となる棋聖戦、そして王位戦であり、この2つを維持する必要がある。その上でトーナメントを勝ち上がれば、もっとも早く挑戦可能な棋戦は7月が番勝負開始予定の叡王戦であり、その次が9月開始の王座戦である。

「二冠」を達成した王位戦第4局 ©相崎修司

 まずは藤井の防衛戦について考えてみよう。これまでタイトルを獲得した棋士は45名いるが、その中で防衛経験がある棋士は27名となる。だが、自身の初タイトルを防衛した棋士はとなると、14名しかいない(内訳は以下の通り。木村義雄名人、塚田正夫名人、大山康晴九段、山田道美棋聖、中原誠棋聖、谷川浩司名人、中村修王将、屋敷伸之棋聖、藤井猛竜王、丸山忠久名人、渡辺明竜王、深浦康市王位、久保利明棋王、佐藤天彦名人。獲得順、肩書は初獲得のタイトル)。

 タイトルを獲得した棋士の実に3分の2以上が初防衛戦には失敗しているのだ。いわゆる羽生世代の羽生善治、佐藤康光、森内俊之も、現在の4強である豊島将之と永瀬拓矢も、初めて獲得したタイトルの確保はできなかった。