また西山は自身が持っている3つの女流タイトルをいずれも防衛した。出場可能な女流棋戦ではすべてタイトルを確保しており、女性の中では一頭地を抜けた存在ともいえるが、番勝負のスコアはいずれもフルセット。西山を追いかける女流棋士も、着実に差を詰めているとみたい。
昨年はヒューリック杯白玲戦という新たな女流棋戦も誕生した。これまでの将棋史において、女性棋士が誕生しなかった最大の理由は「棋士を目指した人数が少なかったから」だと思うが、女流棋界の充実とともに、棋士を目指す女性が増えれば、閉ざされた門を開ける日はいつか来ると思う。
「あと1期となれば意識もするでしょうが」
昨年末の第33期竜王戦で2年ぶりのタイトル戦出場を果たした羽生善治九段だが、奪取には至らず通算タイトル100期の実現は持ち越しとなった。
羽生の100期について、妙に印象に残っていることがある。92期目となった2015年の第86期棋聖戦で防衛を果たした直後のインタビューで、100期に近づいたことを問われた時、
「あと1期となれば意識もするでしょうが、いまの段階ではまだ先の話なので、現実味のある段階ではないのかなと思っています」
と答えていたことだ。当時の羽生は棋聖の他、名人、王位、王座を保持する四冠。四冠保持は2年続けてのことであり、数年後には100期を達成すると思っていたのが多数派だったのではないかと思う。
だが視点を変えると、「100-92=」のタイトル8期というのはレジェンド棋士の一人である加藤一二三九段が生涯にわたって獲得したタイトルの数なのだ。それを数年で積み重ねることを簡単に考えるほうが間違っている。簡単に考えさせることになったのが、羽生の偉大さであるとも言えるが……。
偉業達成の時に誰が目前に座っているのか
筆者は99期達成の瞬間と100期ならずの瞬間の双方を盤側で観戦する幸運に恵まれた。99期の時(2017年)には竜王と棋聖の二冠を持っていたので「100期は近いうちに達成されるんだろうな」と思っていたし、その1年後に「27年ぶりの無冠」になった時には、頭ではわかっていても現実に追いついていないような感があった。
そして現在である。もちろん、タイトル戦は奪取どころか挑戦するまでもが大変だし、また羽生と現在のタイトル保持者の年齢を比較するともっとも年齢が近い渡辺でも14歳の差がある。藤井との年齢差は32だ。棋史を振り返ってみると、20歳以上の年下に挑戦してタイトルを奪った例は極めて少ない。
ただ、これまでに多くの壁を破ってきたのが羽生である。現在、挑戦に近いと言えそうなタイトルは本戦出場をかけて2次予選決勝まで進んだ棋聖戦と、前期からのリーグ残留が決まっている王位戦だ。どちらも藤井が持っているタイトルである。
偉業達成の瞬間を観たいというファンは多いだろうし、またその時に誰が目前に座っているのかという点にも注目が集まるのではなかろうか。
ここで挙げた3つのポイント以外にも、2021年の将棋界には色々と注目すべきことが起こりそうだ。年が明けてもコロナ禍はまだ収まりそうにない。世相を少しでも明るく照らすために、今年も棋界の魅力を伝えていけるように努力したい。