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特集観る将棋、読む将棋

子どもが生まれてから、女流棋士の私は「将棋の目標」を立てなくなった

将棋に向かい続けられない現状を認めて、私はそれを許したい

2021/01/08

 皆様、新年明けましておめでとうございます。

 昨年から始まったこの連載、将棋に興味がある方のみならず、たくさんの方に読んでいただきとても嬉しく思っております。今年も女流棋士として、2人の子どもの親としての思いを文章にのせていきますので、引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

プレーヤーとしての寿命が長い将棋

 新年を迎えると1年の目標を立てる人も多いだろう。

 将棋界の年間成績は年度区切りのため、棋士や女流棋士は「〇〇のタイトルを獲得する」や「1年で〇〇勝する」などの具体的な目標というよりは、「昨年より強くなる」とか「今年は普及に力を入れたい」など、年の始まりに大まかな方針を自分の中に改めて設定する人が多い印象がある。

 将棋はスポーツとは違い、身体能力に大きく左右されないため、プレーヤーとしての寿命が長い(最長の現役年数記録は加藤一二三九段が持つ約63年)。それにより身体的ハンデがあってもそれほど関係なく戦えることや、複数の世代間での戦いが見られることなど、良い点は多くある。

大山康晴十五世名人の扇子。揮毫が好きで長く対局に使っている ©️上田初美

 しかし同時に、プレーヤーとして長く活躍する人たちは毎日の努力を一体どれだけの期間、量を積み重ねているのかを考えると果てしない気持ちになる。将棋は対局数だけで見れば週に1、2局と多くないが、それに向けて毎日、勉強を積み重ね続けなければ勝つことはできない。

羽生九段でもそうなんだ!

 以前、羽生善治九段が加藤九段の最長現役年数記録の話に触れた際に、「とりあえずは目の前の1局、目の前の1年を頑張る。そう思わないと、ちょっとやっていけない感覚はあります」と語っていて、羽生九段でもそうなんだ!と少し安心した。

 その言葉以外にも、将棋界はトップ棋士がインタビューで「1局1局の積み重ねの結果」や「目の前の1局を頑張る」という表現をすることが多い。よくインタビューを聞く方には定型文のように聞こえるかもしれないが、これは本音なのだと私は思う。

 好きなこと、しかもゲームである将棋がそのまま仕事として成立している私たちは、本当に恵まれている。それでも、人生を歩んでいく中で毎日変わらずに努力を続けるのは、想像するよりもずっと大変だろう。もちろん将棋に限った話ではなく、大きな夢に向かって、目の前の小さな目標という名の階段を上り続けようとする人は、もうそれだけで凄いのだ。