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もみ消したいと思ったのは中曽根自身だったのではないか

 中曽根が米政府に「MOMIKESU」よう要請したのが、三木の意向だったとは思えない。

 自民党の幹事長、つまり総理である総裁と歩調を合わせ、政権維持をサポートする立場にある者が本当に発言をしたならば、不可解としか言いようがない。

 そして、もみ消したいと強く思ったのは中曽根自身だったのではないか、という疑問が湧いてしまうのだ。

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 同様の解釈を、ホジソン大使もしている。

《「今後の展開に関する中曽根の推定は我々にはオーバーに思われる。三木の判断について中曽根が言っていることは、我々の理解する三木の立場と合致しない」

白寿を祝う会での中曾根康弘。右は安部晋三 ©文藝春秋

 当時、三木武夫首相は、事件の真相解明を国民に約束し、中曽根氏はそれを支える立場にあった。国民の間で真相解明を求める声は高まっており、「日米安保の枠組みの破壊につながるかもしれない」という見方は誇張に過ぎるというのが大使の見解だったようだ。さらに大使は「中曽根自身がロッキード事件に関与している可能性がはっきりしない点にも注意すべきだ」として、要請の意図にも疑問を投げかける。

 ただ、大使は「日本政府の公式の姿勢とは異なり、自民党の指導者たちの多数は、関与した政府高官の名前を公表してほしくないのではないか」「日本政府の公式の要請を額面通りに受け止めるべきではない」と指摘。米政府としては「もし可能ならばこれ以上の有害情報の公開は避けるのが我々の利益だ」と結論づけている》(朝日新聞・同日34面)

 中曽根の思惑を、大使は見抜いていた。

 だから、大使は、中曽根の要請を公電に載せたのだろう。

事件捜査に懐疑的な態度

 奥山の『秘密解除』では、この「MOMIKESU」依頼について、中曽根が積極的に米国政府と接触する様子がより詳細に紹介されている。

 まず、ロッキード事件発覚翌日、偶然来日していた国務省日本部長ウイリアム・シャーマンと会談している。

©文藝春秋

 単なる表敬訪問となるはずの面会だったが、結果的に話の中心は、ロッキード事件になった。

 その内容は、同日、米国大使館を通じて国務省に公電として伝えられた。

 それによると、「このようなことがらについて(米国の)国内問題として調査するのはいいことかもしれませんが、他国を巻き込むのは別問題であり、慎重に検討されるべきです。米政府にはこの点を認識してほしい。この問題はたいへん慎重に扱って欲しい」(『秘密解除』)と中曽根が釘を刺している。