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未だ極秘扱いされている人物

「MOMIKESU」と公電に記載されたメッセージを伝達した相手について、中曽根は、「私が個人的に使っているアメリカ通の英語のできる人間に指示したのだろうね」と答えている。

 中曽根の説明の通りだと、中曽根は大使館関係者に会ったのではなく、大使館に通じている密使を立てたことになる。

 奥山と私が、この言動を不思議に思うのは、中曽根がロッキード事件に関与していたのなら、下手な動きは禁物なのに、よりによって米国政府に、隠蔽を依頼しているからだ。

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「もみ消しを頼むことそのものが、中曽根さんにとっては、負い目になったはずだと思います。表では『徹底的に究明する』と公言していたのに、裏では国民世論の大勢に背くだけでなく、上司である総理・総裁をも裏切って『もみ消し』を外国政府に依頼した。中曽根さんがアメリカに弱みを握られたのは、間違いないですよね」

 それぐらいの損得勘定は中曽根にも分かっていたはずだ。

©文藝春秋

 国務省への極秘メッセージを依頼した人物について、未だ極秘扱いされていると先述の中島に伝えると、彼は驚いた。

「中曽根さんが、アメリカ大使館にそのような対応を求めていたなら、相手の氏名や所属先を秘密扱いにする必要はありません。大使や公使の署名入りの公文書は、肩書きと名前も含めて公開されています」

 類推すると、やはり中曽根が「MOMIKESU」ことを頼んだ相手は、情報機関─CIA局員の可能性が高いと考えるのが妥当ではないだろうか。

 しかも、CIAといえども一局員の立場では、国務省幹部に伝える権限などなかった。だとすれば、この公文書は、日本にいた大物情報部員からの報告だったと考えられる。

何をもみ消したかったのだろうか

 国務省幹部に繋がるような立場の人物が、当時日本にいたのだろうか。

 CIAのアセット、ロッキード社のエージェント─。

 可能性のある人物はいるが、それは状況から見た推理に過ぎない。

©文藝春秋

 今もってなお、公文書で明かされない名前がある。その事実を前にすると、事件を過去のものとして扱うにはまだ早いと感じる。

 果たして中曽根は、何をもみ消したかったのだろうか。

 自民党幹事長という責務を捨て、米国の協力者に強引に頼み込むほどの、暴かれては困る秘密があったのだろう。

 またそれは、中曽根の異常行動にこそ、ロッキード事件の真相を解く鍵があったと裏付けているとも考えられるのではないか。

 中曽根の秘密が暴かれていたなら、角栄は破滅しなかったのではないか。

 しかし、中曽根亡き今、全ては闇の中に葬られてしまった。

ロッキード

真山 仁

文藝春秋

2021年1月13日 発売