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ロッキード事件の“もみ消し”をアメリカ政府に頼んだ中曽根康弘 自民党幹事長はなぜ総理を裏切ったのか

『ロッキード』より#3

2021/02/06

source : 週刊文春出版部

genre : ニュース, 歴史, 政治, 読書

 ロッキード事件において田中角栄は、本当に有罪だったのだろうか――。1976年、田中角栄は、米国の航空機メーカー、ロッキード社からの賄賂を総理在任中に受け取り、全日空に同社の「トライスター」を購入するよう口利きをした罪を問われた。ロッキード社のコーチャン副会長の証言によると、彼は30億円にものぼる賄賂を、日本の政界にばらまいたという。

 裁判は、1993年の田中角栄の死によって収束を迎える。しかし、田中角栄は嵌(は)められたという主張も未だ根強い。さらに、総理を支えるべき自民党幹事長(当時)の中曽根康弘による、奇妙な“裏切り”も後に発覚した。作家の真山仁氏が事件の真相を追求した『ロッキード』より、一部を抜粋して紹介する。

©文藝春秋

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中曽根の狼狽

 2010(平成22)年2月12日、朝日新聞朝刊一面に、1本のスクープ記事が掲載された。

 スクープをものにした記者は、米国で公文書を徹底的に読み解き、ロッキード事件を新たな視点から検証してまとめた『秘密解除 ロッキード事件』を著した朝日新聞編集委員の奥山俊宏だった。

ロッキード事件「中曽根氏から もみ消し要請」米に公文書

 

《ロッキード事件の発覚直後の1976年2月、中曽根康弘・自民党幹事長(当時)から米政府に「この問題をもみ消すことを希望する」との要請があったと報告する公文書が米国で見つかった。裏金を受け取った政府高官の名が表に出ると「自民党が選挙で完敗し、日米安全保障の枠組みが壊される恐れがある」という理由。三木武夫首相(当時)は事件の真相解明を言明していたが、裏では早期の幕引きを図る動きがあったことになる。中曽根事務所は「ノーコメント」としている》

 問題となった文書は、1976(昭和51)年2月20日にジェームズ・ホジソン駐日米国大使が、国務省に送った公電だ。

 チャーチ委員会でロッキード事件が発覚したのが、2月4日。

 外務省は18日、「高官名を含むあらゆる資料の提供」を米政府に改めて要請するよう、駐米大使に訓令した。これは三木武夫首相の意志であった。

【動画】『ロッキード』で初めてノンフィクションに挑んだ理由を語る、真山仁さん
https://www.youtube.com/watch?v=0pGsG3Vyq5k&feature=youtu.be

 ところが中曽根は、その夜と翌朝に、三木首相の要請とは正反対の秘密のメッセージを米国政府に伝えよと、米大使館に依頼したというのだ。

《中曽根氏は三木首相の方針を「苦しい(KURUSHII)政策」と評し、「もし高官名リストが現時点で公表されると、日本の政治は大変な混乱に投げ込まれる」「できるだけ公表を遅らせるのが最良」と言ったとされる。

 さらに中曽根氏は翌19日の朝、要請内容を「もみ消す(MOMIKESU)ことを希望する」に変更したとされる》

 ちなみに、この公電では、「苦しい」と、「もみ消す」は、その英単語に続いて敢えてローマ字表記の日本語が記されている。