忙しいと教員主導の生徒対応をしがちで、実際にその方が指導にかける時間を短縮できるものだ。しかし、彼女は生徒にはじっくり時間をかけて向き合いたいという信念を持っている。それが、彼女の多忙さに拍車をかけてしまった要因の一つかもしれない。
退職という選択
日々忙しい毎日を過ごしていた大木さんだが、その中で同職の男性と結婚し、子どもにも恵まれた。産休・育休から仕事復帰した彼女は、家事・育児もあってますます多忙を極めるようになった。幼い子どもを持つ女性教員には勤務時間短縮の制度があるが、子どもの体調変化はそのような時短では乗り切れないほどしばしば起きるものだ。
ある時、彼女はふと思った。「私、自分の子どもを保育園に12時間以上預けている」と。それは子どもの小学校入学を控えた時期であった。一人一人の子どもと向き合うことが彼女の信念なのに自分の子どもには十分に向き合えていない、それに気づいたことが、退職の直接のきっかけになる。
その後は、非常勤講師として中学校の教壇に立っている。報酬面では正規と非正規では大きく差が出るので、配偶者や家族の理解がなければできることではない。今の働き方をどう思うか尋ねてみると、「楽です。会議はないし、事務仕事は減ったので」と即答された。
仕事の負担の「見える化」を望む
正規、非正規を両方経験している大木さんに、学校や教員に対して思うことを聞いてみた。 退職の原因になった長時間労働だが、「働き方改革」も進められている中、どのようにすれば改善されるかとの問いには、非常に慎重に考えた上で「難しいでしょうねえ」と返ってきた。彼女は、仕事量が圧倒的に多いことと同時に、「できる」と思われた教員に仕事がどんどん回される状況、いわば仕事の偏在も問題だと捉えている。
生徒と向き合うのが教員の仕事の基本とわかっていながら、現実の学校現場では時間的にも精神的にもそれができない。職員室では、そこにいる教員のほとんどがパソコンに向かっている。そうしなければいけないほどの書類作成や調査などの事務仕事が教員には課せられている。さらに、仕事のできる人は、その人に任せると周囲の人は安心できるので、仕事がどんどん集中してしまう。しかも、それが校務分掌、生徒指導等いくつもの分野で起こるので、その人にどれだけ仕事があるか、周囲の人には見えていない場合も多い。