1ページ目から読む
2/4ページ目
話半分に聞いていた私は、ここが中国であり、ひとつ間違えば大変な事態が起きるということを、あらためて肌身で感じた。
馬は「バリケード」が完成すると、ベッドの中でビックリしている私に向かって「先生、これで50%は大丈夫です」とニヤリと笑った。
彼女の故郷を垣間見て帰国
私は、その日、早朝5時に北京を出発し、ハルピンからさらに何百キロも、埃だらけ穴だらけの道を彷徨って、十分、疲れているはずだった。しかし、もしかしたら忍び込んでくるかもしれない「五常市の強盗」や、何の日に焼けて皺深く汗臭い顔、さらに鉄格子の中の詩織や今も病院のベッドに横たわっている茂に想いが飛び、なかなか寝つかれなかった。馬が「先生寝ますよ」と言って消灯し、すぐに大きな鼾をかき始めても、ヒリヒリした神経は治まらず、私は異国のホテルの暗闇に、じっと目を凝らし続けていた。
その時の訪中では詩織の家族や子どもたち、及び両親に会うことは、日程的にも予算的にもかなわなかった。しかし馬や運転手の奮闘で、詩織の故郷の匂いを嗅ぐことができたし、義兄の何に会い、詩織から託されたお金を渡すこともできた。再び北京に戻り、さらに別の用事を済ませたあと、私が成田空港に舞い戻ったのは9月20日のことだった。
中国から帰った翌日、私は東京拘置所に向かった。
詩織が逮捕されてから、すでに1年7ヶ月、日数にして592日が経過している。