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球団が引退を認めざるをえないほど酷使された肘

「今シーズンは、投げられますかね」

 すると、ドクターは「自分でわかるやろ」と、苦笑しただけだった。僕も同じように苦く笑って、長い現役生活をサポートしてくれたことにあらためて礼を述べ、その場をあとにした。

 ドクターの診断によると、僕の肘は靱帯も損傷していた。翌シーズン以降も現役生活を続けるなら、再びトミー・ジョン手術を受けなければならなかった。当然、削れて穴があいてしまった骨を放置するわけにもいかず、最低でも5回はメスを入れなければならない、という話だった。僕を強く慰留し続けた球団側も引退を認めざるを得ないほど、厳しい診断結果だった。

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みんなに最後のボールを見てほしい

 ドクターの診断がはっきりとした時点で、僕の体はすでに1球も投げることができない状態だったといっていい。シーズン途中であっても、僕は引退すべきだったのかもしれない。

©iStock.com

 だが、いつやめてもいいと覚悟していたはずなのに、現実に引退が決まってしまうと、欲が出た。ファンのみなさんに、僕の最後のボールを見届けてもらいたくなったのだ。痛み止めの注射さえ打っておけば、以前のような連投はできないにせよ、数試合なら投げる自信があった。

 できれば、球場まで足を運んでもらって、直接、見てほしかった。しかし、ご承知のように、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、入場者数は大幅に制限されている。

 1試合あたりの観客数が減らされている状況では、僕の登板機会を増やすしかない。球団側に引退発表を急いでもらったのも、できるだけたくさんの方に見てもらいたいと考えたからだった。

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