経済活動と感染防止の両立ができると「強気の賭け」に
《安倍政権の官房長官時代に、感染再拡大の懸念を押し切りGoToトラベル導入を主導した時からぶれていない。後手に回ったというより、経済活動と感染防止の両立ができると強気の「賭け」に出たのだろう。そして敗れた。》
わかりやすい。後手というより賭けに敗れたというこの評価は「首相のギャンブラー体質」という私の見方を完成させてくれた。そしてゾッとさせるのだ。菅個人として自民党内での権力闘争の話ならこちらは野次馬気分で楽しめる。しかし首相として賭けに敗れているのだ。我々の命運も一緒に賭けられていることになる。こんな危険なことはない。
「いいから、代えるんだ」「理事は辞めさせろ」
ここであらためて考えたい言葉は「ブレない」と「頑固」だ。
「ブレない」はギャンブラー体質とリンクしていることがおわかりだろう。最初に決めた答えを変えないから「ブレない」のである。つまり「頑固」。その根拠は自分は絶対に正しいという自信からだ。そして賭けに負け、最近は渋々と政策を変更する。
権力者であればその強い振る舞いも気になる。
『政治家の覚悟』を読むと、菅が官僚を強い口調で蹴散らす様子が嬉々として書かれている。
第六章の「NHK担当課長を更迭」。
「質問もされていないのに一課長が勝手に発言するのは許せない。担当課長を代える」
「ダメだ」
そして、
《「いいから、代えるんだ」と押し切りました。》
自慢げに書いている。この本にはほかにも官僚に対する「強い口調」の描写が度々出てくる。
・「それなら地方交付税を含めていっさい口出しするな!」つい、語気を荒らげてしまいました。(P78)
・私は強く言いました(P81)
・「何を言っている。当然、全国に波及させるためにやるんだ!」と言うと主計官は絶句していました。(P159)
・こんな理事がいたのでは、改革などできないと感じた私は、道路局長を呼んで、「夜中は走らせないなんて理事は辞めさせろ」と命じました。(略)私がそこまで怒っていると知った理事は、何度も面会を求めてきて、「私の勉強不足でした。ぜひ、そういう方向でやらせてください」と積極的に取り組んでくれました。(P162)
自慢のオンパレードである。
もともとこの本は『政治家の覚悟 官僚を動かせ』(2012年)というタイトルだったが、これでは官僚を動かせというより脅しているように見える。改革するにしても、反対意見にも耳を傾けて議論していくという発想がこの本からは見えない。自分が一番正しいという結論から始まっているのだ。今回の学術会議の件に見事に通底している。これを「ブレない」と評価するのか「頑固」だと思うのか。私は後者だ。議論が存在しない頑固。