これ以上耐えられず廃業したい
コロナの第三波が始まった昨年11月中旬、韓国政府は「3段階(=シャットダウン)より強力な2.5段階の防疫を実施する」と謳い、「ピンセット防疫」と称して、一部営業場に対する集合禁止(営業縮小あるいは中断)の行政命令を発動させた。まるでピンセットで突き刺すように、患者の発生しやすい場所や時間を選別し、コロナの拡大を積極的に阻止するという防疫対策だ。
しかし、このピンセット防疫は、集合禁止の適用基準があいまいであり、随時変更されることから、「ゴムひも防疫」、つまり緩み切った対策だと非難されている。例えば、同じ飲食業でも食堂は売り場で食事が可能だが、カフェは売り場を利用することができず、テイクアウトのみ可能だ。利用者がマスクをして運動するスポーツジムのような室内体育施設は閉鎖する一方で、マスクができない銭湯は営業することができる。室内のスクリーンゴルフ場は営業可能だが、カラオケボックスは営業場を閉鎖させた。ネットカフェは営業可能だが、塾は閉めなければならない。ゴルフ場は営業できるが、スキー場は営業できない……。
原則も基準も曖昧な政府の「ゴムひも防疫」は公平性についての議論を引き起こし、自営業者から批判を受けている。ソウル市陽川区(ヤンチョング)でカラオケボックスを経営するハンさん(63)は最近、廃業手続きについて調べている。カラオケボックスは、文在寅政権の「ピンセット防疫」のせいで、最も大きな被害を被った業種の一つだ。昨年4月に実施された2週間の営業停止に続き、5月に50日間、8月に1カ月間、さらに12月7日から1月18日までの1カ月以上にわたり営業停止を余儀なくされた。
「昨年1年間、政府命令で閉鎖を繰り返し、営業日より休んだ日が多かったほどです。店の賃貸料や電気代などの維持費として1カ月に400万ウォンもかかるから、これ以上耐えられず廃業したい。でも、廃業するにしても、インテリア撤去費で数千万ウォンかかるそうです。機器処理費用も頭が痛い。高価なカラオケ機器を中古品として売ろうとしても、廃業するカラオケ店があまりにも多く、売り渡すどころか、むしろ運搬費を払わなければ処理できないと言われました」
格差拡大が深刻化
文政権の防疫対策によって廃業の危機に追い込まれた業種の従事者らは、集団行動に出た。スポーツジム連合会、カフェ連合会などの自営業者団体は街頭に出て抗議の声を上げ、政府指針を破って営業場をオープンした。政府を相手にする集団損害賠償訴訟も開始した。
また、「補償のない防疫措置は基本権侵害だ」として、憲法訴訟も提起された。自営業者の反発が大きくなると、政府は特定業種に対する防疫措置を緩和する方法で鎮火に乗り出した。いわゆる「ピンセット緩和」だ。カフェでも1時間以内であれば売場を使えるようにし、ジムやカラオケ、塾などの営業を許可した。
政府の強制営業停止命令により損害を被った自営業者を支援する「損失補償法案」の立法化も進めている。財源調達のため、「利益共有制法」(コロナで実績が上がった企業がコロナによって損害を被った業界や階層に利益を分ける法律)や「社会連帯基金法」(社会的弱者を助けるために民間企業が自発的に基金を創設する法律)を、損失補償法とともに2月の国会で処理する方針を決めた。
しかし、月に24兆ウォン以上の財政が必要とされる損失補償法の財源調達は容易ではない。与党では、このほかにも、消費税を上げる案や、政府が国債を発行して韓国銀行が買い入れる案なども積極的に検討されている。