将来世代を搾取する文在寅政権
文在寅政権は発足以来、「所得主導成長」という経済基調を維持している。所得が増えれば経済が成長するという論理だが、所得を増やす方策として、最低賃金の急激な上昇、非正規職の正規職化による良質の雇用提供、各種福祉の拡充などを提示した。
最低賃金については、文政権の3年間で32.8%も引き上げており、コロナ禍で企業が最低賃金凍結を訴えたにもかかわらず1.5%の引上げを断行した。さらに労組の権利を強化する各種法案を国会で可決し、ただでさえ事業所のストが深刻な強硬労組を後押しした。
良質の雇用提供のためには、公務員の増員や公共雇用創出などで80兆ウォンをつぎ込んだ。一方、現金バラマキを福祉政策の基調路線としたことで、毎年、政府予算は急激に拡大していき、3年間で国家負債が180兆ウォン増えた。文政権が終わる2022年までに440兆ウォンの負債が増え、韓国の国家負債は1100兆ウォンを超える見通しだ。
しかし、文政権の3年間、韓国の経済成長は世界の平均値を大きく下回っており、朴槿恵政権で維持されてきた「3%台の経済成長」は、一度も達成できなかった。80兆ウォンの財政をつぎ込んでもまともな働き口作りに失敗し、老人のバイトを増やしただけだった。所得格差はむしろ拡大して、いまや「K字型両極化」という言葉が広がっている。
そんな中、コロナが韓国経済を襲った2020年、韓国の経済成長率はマイナス1%を記録した。文在寅政権は「他の先進国に比べれば結構な善戦」などと広報しているが、前年度の経済成長率が2.0%と例年と比べて低かったことや、4度の補正予算を強行して財政を拡大したことが功を奏しただけだ。
詳しく内容を見れば、民間消費は5%も低下し、1998年のアジア危機以降最低を記録した。韓国経済を支えている輸出も2.5%減少し、リーマンショックが起こった2009年以降、初めてマイナスを記録。家計負債は100兆ウォン以上増加し、計1940兆ウォンあまりと、史上最高を記録するとともに、韓国GDPの100%を超えてしまった。家計や公共機関、国家負債を全て合計すれば、国内全体の負債額は5000兆ウォンを超え、韓国GDPの3倍に迫る。
2022年の大統領選挙の前哨戦となるソウル市長選挙や釜山市長選挙を4月に控えて、文在寅政権は再び現金バラマキのための負債の拡大に積極的に乗り出している。票のために将来世代の資源を前借りしようという考えだ。全世界で最も早いスピードで高齢社会に進入しており、北朝鮮リスクまで背負った韓国の状況で、文在寅政権による国家負債の急増は韓国経済の命取りになるだけでなく、将来世代に対する搾取になっていくだろう。
◆
「文藝春秋」2月号及び「文藝春秋 電子版」に掲載した金敬哲氏の論考「『コロナ』と『賃上げ』で経済は死んだ」では、ソウル最大の繁華街・明洞を現地ルポして自営業者たちの苦しみの声を伝えているほか、発足から3年が経ち、急速にレームダック化が進む文在寅政権の失政について詳述している。
明洞ルポ 「コロナ」と「賃上げ」で経済は死んだ