フットボール発祥の地、イングランドでは9歳の時点で才能を認められてアカデミー入りした選手でも、トップチームに上がれる選手はわずか1%。さらに、18歳でプロチームと契約した選手でも、22歳の時点で変わらぬ地位にいる選手は400人中8人ほどだという。それだけ過酷な競争社会にあるサッカー界において、スペインで最も堅実な育成機関と評されるチームがスペイン一部リーグの「ビジャレアルCF」だ。

 しかし、現在ビジャレアルの下部組織では、フットボーラーではなく、“人”を育てる方向性に指導内容がシフトしているという。選手育成力の高さが売りの一つでもあった名門クラブは、いったいなぜそのような指導改革を行ったのだろうか。同クラブで指導者を務めてきた 佐伯夕利子氏の著書『教えないスキル ビジャレアルに学ぶ7つの人材育成術』(小学館)を引用し、その理由を明らかにする。(全2回の1回目/後編 を読む)

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17歳の死

 2020年10月。かつてマンチェスター・シティFCのアカデミー(育成組織)に所属していたジェレミー・ウェスティンが17歳で亡くなりました。18年にシティから契約を切られていました。

 トップチームのイングランド代表であるスターリングや、フランス代表のラポルテも訃報に反応。ウェスティンへの追悼の意を示しました。自死というだけで、報道には動機は書かれていませんでしたが、育成に身を置いてきた私は彼の絶望と落胆を想像し心が震えました。

 フットボール発祥の地といわれるイングランドにおいて、シティのようなビッグクラブのアカデミー所属であろうとも、過酷なサバイバル競争に身を置くことに変わりはありません。報道によるとイングランド1部のプレミアリーグのクラブでは、9歳でアカデミーに入団する子どもでトップチームデビューするのは1%に満たないそうです。

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 13歳から16歳までの間に4分の3以上が戦力外となり、16歳でプロ契約を結んだ選手の98%近くが、18歳時点ですでに1から5部までの上位5リーグで生き残れません。

険しいプロ選手への道

 最近の調査によると、18歳でプレミアリーグのチームとプロ契約した選手400人のうち、22歳になってもトップレベルにとどまるのはわずかに8人。5年前のデータでは、イングランドの150万人以上のフットボーラーのうちプレミアリーグでプレーしていたのは180人。その確率はたった0.012%になります。

 では、スペインではどうか。メッシ、ピケをはじめ1986~87年生まれの名選手が多く活躍しているため、この世代はゴールデン・ジェネレーションと呼ばれています。2000年にメッシが13歳でスペインに来た当時、同じカテゴリーのスペインフットボール協会登録選手数は8万3801人でした。その後、スペイン1部リーグデビューを果たしたのは、たったの48人。20年現在の登録選手数は、メッシが来た00年時に比べ2倍に膨れ上がりました。プロになれるのは2600人にひとりで、その確率は0.038%。プロへの道は非常に険しいものになっているのです。

 ここまでの厳しい現実を、もっと真剣に受け止めておくべきだったという反省が私の中にあります。