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「4-3-3の話は卒業しよう」

 こんなにもハイリスクな現実を見て見ぬふりしたまま、お預かりしている選手たちを「フットボール選手」としてしか育成してこなかったのではないか──。他のコーチとも何度もそんな話をしました。

「選手じゃなくなった時の彼ら」に責任を持とう。そう誓い合ったのです。

 他クラブからは「育成部とか下部組織は必要ない。他クラブの23歳以下(のチーム)から買ってきたほうが、育成にかかる年間費用を考えると効率がいい」という声も聞こえてきます。それも事実です。

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 ビジャレアルはU12以上の100人が寮に入り、クラブが衣食住をサポートし、学校の授業料も面倒を見るのに加え、個々で違いはありますが報酬もあります。育成に費やす経費は決して低くありません。

 とはいえ、育成力を磨くことは、人口5万人ほどの小さなまちのクラブが、スペインリーグという世界屈指のハイレベルなマーケットを生き抜く術ともいえます。つまり、サバイバルできる選手を育てることが、クラブのサバイバル術。生命線でもあるのです。

 私たちには「育成のビジャレアル」という看板を掲げ、育てた選手の対価を財政基盤にしてきた育成型クラブとしての矜持もありました。

 そんな背景もあって、もう一段上のコーチングメソッドを構築しようと、14年から指導改革に乗り出すことになりました。

©iStock.com

「これからは、大人になってからではなく、彼らと出会った瞬間からケアが開始されるべきだ」

「フットボーラーを育てればいいわけじゃない。“人”を育てるのだ」

「人格形成ができることは、必ずフットボーラーとしての進化を促進させるはずだ」

 そんな結論に達した私たちは、この改革を「ビジャレアルCF人格形成プロジェクト」と名づけました。

 メソッドダイレクターとして、コーチデベロッパーの専門家であるセルヒオ・ナバーロが加入。彼はクラブハウスにやってきた日、私を含めた120人の育成コーチに向かって言いました。

「ポジショナルプレーや4-3-3といったサッカーの戦術や技術的なことを、君たちはもう熟知しているはずだ。お腹いっぱいだろう。この話は卒業しよう。今日から、みんなで変わろう」