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「血の通った熱い悪口求む」ストレスフルな職場で身につけた“言葉の刃”をはね返す意外な方法

『督促OL 修行日記』より #15

2021/02/21

source : 文春文庫

genre : エンタメ, 読書, 社会, 働き方

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 歩いてるとすれ違いざまに「ブス!」「デブ!」と罵ってくる男の人たち。お会計を間違えて指摘すると嫌そうな顔をする店員さんたち。インターネットに人の悪口を書きこむ人。世の中、四方八方から心を傷つける言葉の刃が飛んでくる。

涙味のお菓子

 社会人になって、コールセンターに配属されてからも、お客さまの罵詈雑言はどこからともなく飛んでくる弓矢のようだった。コールセンターは古戦場で、少し気を抜くととたんに串刺しにされる。目の前で仲間がお客さまの言葉に傷ついてバタバタと倒れていく。私の仕事場はそんなところだった。

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 それでも、ひどい罵詈雑言を浴びせられながら、夜の10時過ぎまで怒鳴られ続ける時も、上司や先輩は私の電話が終わるのを何も言わずに待っていてくれた。

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 ところどころ電気が消されてうす暗くなったコールセンターで、K藤先輩は私の隣で電話を聞きながら一生懸命、筆談でクレームの対処法を説明してくれた。遅くまで時間がかかっても、K藤先輩も高田純次課長も嫌な顔一つせず私を待っていてくれた。

 先に帰る先輩も、「がんばれ」と書いたメモを残していってくれた。クレームの電話を受けていると、いつの間にか傍らにはメモとお菓子が積まれて小山ができていた。普段はコワモテで厳しい癖に、こういう時だけ優しいのはほんとうにずるい。クレームの電話が終わるといつも泣きながらそのお菓子を食べた。涙味のお菓子、それは今まで食べたどんな食べ物より忘れられない味になった。

督促で学んだことの数々

 最近、久しぶりにキャッチセールスに声をかけられた。

「お姉さんちょっと待って! 今そこで化粧品のお試し会をやってるんでぜひ寄ってってくださいよ!!」

 不覚にも腕を取られてしまった、どうやら相当押しの強いキャッチらしかった。でもそこで、私の口からは反射的に言葉が出てきた。

「お役に立てなくて本当にごめんなさい! 今ちょっと急いでるんです!」

 いきなり謝られたことにびっくりしたのか、声をかけてきたお兄さんに隙ができた。

 その隙に、するりと腕をはずして「声かけてくれてありがとう、それじゃ!」と言って走って逃げる。最後に嫌な言葉を浴びせかけられることもなかった。

 いきなり謝れば相手は警戒心を解く、謝罪にお礼を挟んで感情豊かに応対する、もちろんここぞといういい声を出した。全部、督促で学んだことだった。