「人見知りで話しベタで気弱」を自認する新卒女性が入社し、配属されたのは信販会社の督促部署! 誰からも望まれない電話をかけ続ける環境は日本一ストレスフルな職場といっても過言ではなかった。多重債務者や支払困難顧客たちの想像を絶する言動の数々とは一体どんなものだったのだろう。

 現在もコールセンターで働く榎本まみ氏が著した『督促OL 修行日記』から一部を抜粋し、かつての激闘の日々を紹介する。(全2回の1回目/を読む)

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センパイ武勇伝

「へぇ~、債権回収やってるんですか。じゃあ、アナタは僕の敵ですね」

 ある日参加した異業種交流会の会場。最初、優しそうな笑顔で話しかけてくれたその男性は、交換した私の名刺を見るなり、突然そう言い放った。

 背が高く、日焼けした彫りの深い顔。イケメンだし、渡された「映像制作会社の代表取締役」という名刺にちょっとドキドキしていた私は、いきなりの先制攻撃を受けてあいさつ用の笑顔のまま凍りつく。

「僕は昔、消費者金融に借金をして督促されたことがあるんですけどねぇ、あれには本当に腹が立ったよ!」

 唐突にそのイケメン社長は、目の前で怒り始めてしまった。

(えっ? えっ? なんで私が怒られてるの!?)

 ボーゼンとしながらひたすら怒っているイケメン社長の文句を聞いていると、言い返さない私に満足したのか、彼は一通り私を罵倒してスタスタと去っていった。

 取り残された私は名刺を握り締めたまま立ち尽くすしかなかった。それから数分遅れて、ふつふつとやり場のない怒りが湧き上がる。

(私が督促したわけでも、その会社で働いているわけでもないのに、なんで怒られなきゃいけないの? あぁ……でもこの督促という仕事は、やっぱり人さまから恨みを買うお仕事なんだなぁ……)

 私は世間から見た督促という仕事へのイメージと評価を目の当たりにしてしまったような気がした。交流会にはまだ来たばかりだったけれど、それ以上その場にいる気になれず私は下を向いてトボトボと会場を後にした。

©iStock.com

 世間で言われる督促のイメージは決して良いものじゃない。

 先日テレビをつけると偶然やっていた子ども向けの特集でも、借金の取り立てというと絵にかいたような怖いお兄さんが出てきて、真夜中に「カネ返せ、ワレェ!!」と大声で怒鳴ったり、胸ぐらをつかんだりして借金を取り立てていた(テレビに出てくる取り立ての人ってなぜか関西弁だよね)。

(ちゃんとした会社は、こんなことしないよ! 法律に違反するし、もしもこんなことしたら一発で業務停止になっちゃうのに!)

 そんな“いかにも”な借金の取り立てのお兄さんが映ると、思わずテレビ画面に向かって抗議したくなる。子どもの頃からこういった番組を見て育つのだから、借金の督促に良いイメージを持つわけがない。

督促の過去

 もちろん、督促の仕事が嫌われているのには理由があって、消費者金融や信販会社の中には、数年前まで本当にひどい督促をしていたところもあった。

 2006年には行き過ぎた督促が原因で大手会社が業務停止になり、その後もいくつかの会社が処分をうけた。こうした流れを受けて、私の会社も含めて金融業界は全体的に督促の方法を改めることになった。昔はほとんど男性社員が行っていた督促も、今ではより圧迫感を与えにくいという理由で女性オペレーターが採用されている。