まっ黒な街宣車がやってきた
ところがその次の日のこと、いつものように店舗で仕事をしていると、何やら外が騒がしい。K藤先輩が当時3階にあった店舗から窓の外を見てみると、
「げっ!! 何アレ?」
なんとビルの周りを取り囲むように、まっ黒な街宣車が横付けされている。
街宣車はけたたましく音楽を流し続け、そのうちスピーカーからこんな声が響いてきた。
「K藤○子を出せ~~!」
(って私!?)先輩が身を乗り出して見ていると、続いてなぜか、
「○山×雄も出せ~~!!」
と、当時K藤先輩が勤めていた店舗の店長の名前も呼ばれる。すぐさま店長が真っ青な顔をして飛んできた。
「ちょっと、K藤くん! 何したの!?」
「ええ~? 心当たりないんですけどぉ……」
首をかしげつつ、しきりにいぶかしがる先輩。
「なんで街宣車なんて……あっ!! まさかっ!!」
店長は、はっとしてすぐ店舗のバックヤードに飛んでいくと、何かを探し出して戻ってきた。
「K藤くん! まさかこのファイルのお客さまに電話した!?」
「え?」
店長の手に握られているのは、昨日先輩が電話をかけた「電話禁止!」と書かれているファイルだった。
「あ、電話しましたけど、なんかまずかったですか?」
「まずいよ!! まずいに決まってるじゃない!! あっ、やっぱり××さんに電話かかってるぅ! この人はね、息子さんがいわゆるそっち系でねっ、前も督促をしたら街宣車が来ちゃったんだよ!!」
あ~あの、おばあさんかぁ、とやっと心当たりにたどり着くK藤先輩。なんと昨日電話をかけた人のよさそうなおばあさんがこの事件の発端らしいのだ。
ちなみに店長の名前までバレているのは、店長は責任者としてお店の外に名前が掲示されているからだ。どうやらソレをわざわざ調べてきたらしい。
「ど、どうすんのコレ!?」
「えー、……どうしましょうねぇ……」
涙目で青ざめている店長をよそに、先輩が窓の外を見ると街宣車はぐるぐるとビルの周りをまわったり、止まってスピーカーから相変わらず大音量で音楽を流したり、名前を叫んだりしている。
「K藤○子を、出せ~~、○山×雄も出せ~~」
(なるほど、成果を急ぐとこういうことになるのねぇ……気をつけようっと)
先輩は反省しつつも堂々と正面から帰宅したらしい。「だって電話で話しただけだから、顔は割れてないし」と……。なるほど、こういう性格の人が督促で生き残るんだ。やっぱコールセンターの青いあくまは侮れない。
督促今昔物語
そんなK藤先輩に連れられて、10年、20年前から督促をしている大ベテランたちの飲み会に行ったことがある。今日では古き悪しき時代と言われている、貸金業法改正以前の督促をバリバリ現役で行っていた人たちだ。当時はまだ、直接お客さまの元に回収に行く訪問回収も行われていた。
「今はホント、ぬるい時代になったよ」
そうビールをかたむけるのは、元街金で今は信販会社勤務のO野さん。年の割に渋いベージュのスーツを着ているが見た目は普通のサラリーマンである。