「人見知りで話しベタで気弱」を自認する新卒女性が入社し、配属されたのは信販会社の督促部署! 誰からも望まれない電話をかけ続ける環境は日本一ストレスフルな職場といっても過言ではなかった。多重債務者や支払困難顧客たちの想像を絶する言動の数々とは一体どんなものだったのだろう。

 現在もコールセンターで働く榎本まみ氏が著した『督促OL 修行日記』から一部を抜粋し、かつての激闘の日々を紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)

◇◇◇

ADVERTISEMENT

濃すぎる人間修行

 ある日のこと。

「うわっ! なんだこの顔!?」

 一日の仕事を終えた後、鏡に映った自分を見て、私は本気でびびった。

 督促OL生活も2年目になると、新入社員のころほど死にかけることは減っていたのに、その日は、なぜか、目の下に縁取られた濃いクマ、不健康にこけてきた頬、肌荒れでボロボロの見るに堪えない肌……と、どっからどう見ても、私の顔には「死相」が表れていた。

(ああ、なんでこんなことに……。もしかしてこれって、あのお客さまの……)

 私は鏡の中の自分をまじまじと見つめた。

 当時、私が担当していたお客さまが購入していた商品はひたすら異彩を放っていた。

 その商品とは100万円以上もする、「水晶玉」。

 お客さまは年金暮らしのお爺さん。水晶玉を購入されたのはもう何年も前で、長い間コツコツ入金してもらっていて全額払い終わるのももうすぐだった。

 ただ、年金暮らしになってから収入が減ってしまったのか、最近どうも入金が遅れがちになっていた。ここのところは毎回入金が遅れている。入金を促すために、私も毎月のように督促の電話をかけなければならなかった。

「恐れ入ります~。N本と申しますが、Aさまはご在宅でしょうか?」

「Aは留守です」

 私が延滞をお知らせする督促の電話をかけると、電話口に出られたのは契約者さまの奥様と見られる高齢の女性だった。

「アンタ、カード会社でしょ。用件はわかってる、しつこいわねぇ。もう電話しないでよ」

(う……、これは完全に嫌われている……困ったな)

呪いの水晶玉

 ここのところ毎月支払いの遅れが出ていたので、奥様は毎度、毎度電話をかけてくる私のことを覚えてしまったようだ。確かに度々電話がかかってくるのは迷惑だと思うのだけれど、電話をするなと言われて「はいそうですか」とそこで電話を止めてしまっては、代金の回収ができない。

「ええと、Aさまに直接お伝えしたいことがありましたので、お留守でしたらまた改めさせていただきますね」

 私はお客さまの要求をやんわりと流して電話を切ろうとした。その瞬間、受話器から突然、低くて暗い、不気味な声が響いた。

「お前を呪ってやる……」

「へっ!?」

 電話越しに聞こえてくるのは、なんともおどろおどろしい声だった。

©iStock.com

「私は霊能力者なんだ。私の言うことをきかないのなら、お前の会社を潰してやる!」

「えぇ!!」

(そうか、水晶玉ってこういうことだったんですね!)

 と、思わず妙なところで納得している場合ではない。いきなり呪われてもどう反応すればいいのかさっぱりわからないが、とりあえず私は「また改めます」という言葉を絞り出し、なんとかその電話を切った。

 督促をしていると、襲撃予告や罵声を浴びせられるのは珍しくないけれど、「呪い」をかけられたのはこれが初めての体験だった。