「先日××という会社が潰れただろう。あれは私が潰したんだ」
まぁ直接何かをされるというわけではないのだけれど、呪われるのは気持ちいいもんじゃない。電話の後はなんだかグッタリとした気分になる。うーん、まさか、これが呪いの効果なのか……いやいや、そんなことはない、と自分に必死で言い聞かす。
でもその後も、私はお客さまに電話をかける度に呪いをかけられることになった。
「あのう、N本です。ご契約者さまをお願いしたいのですが……」
「なんだ、また電話してきたのか。先日××という会社が潰れただろう。あれは私が潰したんだ」
「さようでございますか……」
「今、お前も呪っている」
「さっ、さようでございますかー!」
風邪をひいてもベッドの角に小指を打ちつけても、白いシャツに醤油をはねさせても、ひょっとしてこれって「呪い」効果!? と、お客さまのあのおどろおどろしい声を思い出してしまう。
結局このお客さまは、その後何回か電話をしているうちに、霊能力者の奥様が不在の隙にやっと契約者さまご本人と電話が繋がって無事入金していただくことができた。
ちなみに契約者さま、つまり呪いをかけてくる霊能力者の奥様の旦那さまは、電話越しでは本当に普通の方だった。
入金していただいた後は、なんだかいつも以上に疲れてしまった。やっぱりこの「呪い」は本物だったのかなぁ……。
カネと泪と男と女
金の切れ目が縁の切れ目という言葉があるけれど、お金を払ってまでつなぎ止めておかなければならない縁なんて、本当に必要なのかな? 督促をしていると、そんなふうに考えさせられることがある。
「あ、私N本と申しますが、○○さまでいらっしゃいますか?」
「はい、そうですけど……」
ある日、電話をかけた20代前半の女性のお客さまは、そこそこ大きな会社で働いているOLさんだった。「お支払いの件で……」と私が言うとすかさず「いくらですか?」と強張った声で返事が返ってきた。
「えーと、今回のご請求金額は14万円ほどになっていますが……」
ちょっと金額が大きいなぁ、と思いつつ、私が金額を伝えると電話の向こうで大きなため息がこぼれる。
「一括でそんなに払えないんで、リボ払いにしてもらえますか?」
「あ、ハイ。かしこまりました~」
カード会社によって異なるけれど、私の会社では一括払いで買った商品を後からリボルビング払いという分割払いに変更できるようになっている。
私は支払方法を変更するために、お客さまの購入した商品をチェックし始めた。
(あれ……?)
私はお客さまのカードの利用明細を調べるうちに、なんだか違和感を覚えた。
そのカードの利用明細には、名前からしてキャバクラと思われる飲食店だったり、同じ日に高級焼肉店で2万円以上も食事をしていたり、およそ20歳そこそこの女性には不似合いな買い物の履歴が記録されている。嫌な予感がした。
「えーっと、お客さま。失礼ですが、今クレジットカードはお手元にございますか?」
恐る恐る尋ねると、電話の向こうでしばしの沈黙があった。
「実は、今カードは、彼氏が持ってるんですよね」