「今カードをお止めしました。来月のお支払い金額は全てリボルビング払いに変更させていただきました」
「ありがとうございます」
カードが止まることで「こんな関係はやめよう」、そう決断してくれていたら嬉しいんだけどなぁ。私は電話越しにそんなことを祈ってしまった。まったく人のオトコの心配している暇はないのだけど……。
悪いオンナにだまされて
そうかと思えば、こんなこともあった。
「彼女が始めたお店で、よくわからない健康食品を買っちゃって……」
督促の電話に出たお客さまの口から発せられた言葉を聞いて、私は思わず言葉に詰まった。
受話器の向こうから聞こえてくるのは、男性にしては高くてか細い声。まるで息も絶え絶え、といった様子で話すので、思わず「ど、どこか具合でも悪いんですか?」と聞いてしまいそうだったけど、どうやらそれがこのお客さまの地声らしい。
お客さまが買っていた健康食品はなにかのサプリメントらしいが「何これ!? 高っ!!」と、ちょっと目を疑ってしまうような値段だった。
念のため、「押し売りされたとか、無理やり買わされたわけではないんですね?」と確認してみたけれど、「あぁ、それはないですぅ~」と、電話の向こうからは消え入りそうな声で返事が返ってくる。
「ご納得の上で買われたんですよね?」
「……買いました」
なぜこんなにしつこく聞くかと言うと、悪徳商法の可能性がある場合は報告する義務があるからだ。でも健康食品の値段はピンキリで、高価だからと言って即悪徳商法とは限らない。世の中にはなんだかよくわからない名前のついた10万も20万もする健康食品がある。それが巷にあふれているということは、督促の仕事をして知ったことの一つだった。
「すみません……ちょっと今お金なくて、次のボーナスまで支払いを待ってほしいんですけど」
「わかりました、そのくらいであればお待ちできます」
期日を確認すると、なんとか私が待てる範囲内だった。私はお客さまの申し出を承諾して、交渉の記録をパソコンに打ち込んだ。
このお客さまの今までの入金の記録を見ると、たまに支払いが滞ることはあっても、ほぼ毎月きちんとお支払いを続けている。当然カードは使える状態なので、限度額いっぱいに健康食品を買おうが、私が口を出せることではない。
私たちは立て替え払いをしているだけ。詐欺や法律に触れる方法で売られた商品なら別だけれど、売買に関するトラブルの処理は、基本的にお客さまとお店の間で行うことになっている。双方が合意して買った商品なら、なおさら口をはさむ権利なんてないのだ。
(でも、こんなに高額の健康食品を買わせるなんて、どんな彼女なの!?)