「人見知りで話しベタで気弱」を自認する新卒女性が入社し、配属されたのは信販会社の督促部署! 誰からも望まれない電話をかけ続ける環境は日本一ストレスフルな職場といっても過言ではなかった。多重債務者や支払困難顧客たちの想像を絶する言動の数々とは一体どんなものだったのだろう。
現在もコールセンターで働く榎本まみ氏が著した『督促OL 修行日記』から一部を抜粋し、かつての激闘の日々を紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)
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コールセンターの青いあくま
「今日から君の教育係になるK藤さん、仲良くしてね~」
「はぁ……」
コールセンターが統合されても結局まだ私の課長は高田純次だった。そんな高田課長に紹介されたのが、K藤さんという女性の先輩だ。
ブルーグレーのスーツから伸びる枝のように細い手足。肩口で直線に切りそろえられたさらさらの髪。切れ長の瞳が真正面から私を捉えた。
「K藤です。よろしくね、N本さん」
「ハ、ハイ!」
私はK藤さんの全身から放たれる圧倒的な“デキる女”オーラに思わず後ずさった。
K藤さんは30代後半。パートのオペレーターとしてコールセンターに入り、契約社員を経て正社員になった筋金入りの叩きあげ社員だった。そしてとんでもなく仕事ができる。わりと放任主義だった前任のS木先輩とは違い、教育方法は超スパルタ。
「なんでちゃんと入金根拠聞かないの? ホイホイ入金約束取って回収できるわけないでしょ」
「(交渉の)踏み込みが甘い! 私たちはお客さまに嫌なこと言うからお給料もらってるのよ」
私のモニタリング(お客さまとの電話の記録)を聞きながら、K藤さんは歯に衣着せずダメ出しをしていく。
「すみませんて言いすぎ。耳障りなのよ、今度謝ったら罰金」
「すみませ……あっ、えっと、気をつけます……」
夏はブルーグレー、冬は濃紺のスーツを好んで着ていたK藤さんは、いつも私の隣の席に座って、あまり表情のないその美貌でつっこみを入れる。
「はー……あんたって子は、いつまでもドジでかわいいOLでいられると思ってんの?」
(あ……あくま……)
コンプライアンスで厳しい昨今。パワハラって訴えたら勝てるんじゃないか!? と思うような事を平気で言う。でも、K藤さんは仕事ができない私にとことん付き合ってくれた。早朝でも深夜でも私に付き合って職場に来て、私が起こしてしまったクレームを何十件も代わりに収めてくれた。
私はK藤さんの厳しすぎる指導のおかげで、それまでできなかった仕事がいくつもできるようになった。今でも恩人として感謝しているのだが、その頃の私にとっては、彼女は近寄ってくるだけでビビる、「コールセンターの青いあくま」だった。