「人見知りで話しベタで気弱」を自認する新卒女性が入社し、配属されたのは信販会社の督促部署! 誰からも望まれない電話をかけ続ける環境は日本一ストレスフルな職場といっても過言ではなかった。多重債務者や支払困難顧客たちの想像を絶する言動の数々とは一体どんなものだったのだろう。
現在もコールセンターで働く榎本まみ氏が著した『督促OL 修行日記』から一部を抜粋し、かつての激闘の日々を紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)
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自尊心を埋める
同期のA子ちゃん。努力家で美人で、やさしい、私の憧れだった彼女が心身を壊して会社を辞めたことは、私の心に大きな穴を開けた。
それと同時に私も、このままじゃ心も体もダメになると思った。このままではきっと私も彼女の後を追う、遅かれ早かれ同じ状態になってしまうに違いない。
A子ちゃんは、お客さまに怒鳴られたり、感謝されないことが嫌だと言って会社を辞めてしまった。その気持ちは痛いほどよくわかる。
この督促の仕事を続けていくためには、怒鳴られたり感謝されなくても平気な「心」を作らなきゃいけない。
でもなんで相手から怒鳴られたり、罵倒されたりすると傷つくんだろうか。そんなの当たり前かな? でも世の中にはののしられて喜んじゃう趣味の人たちだっているわけだし(!?)、きっとお客さまの言葉に傷ついても平気になる方法があるはずだ、と私は考えた。
例えばお客さまに悪口を言われたとする。そうするとカチンときて腹が立つか、もしくは心が傷つく。けど、なんでカチンときたり傷ついたりするんだろう。
それは、人間には自尊心があるからだ。
人間は誰でも自尊心を持っている。ぞんざいに扱われたり軽んじられたりすると、それが傷ついてしまう。お客さまにひどいことを言われると自尊心が傷つく。お礼を言われないと自尊心が満たされない。だからこの仕事は辛いんだ。私の痛みの源になっているのは自尊心、つまりプライドだ。
私はプライドが高かった。だって自分に自信がなかったから。自信がない人はプライドを高くすることで自分の心を守る。プライドは傷つけられないための外殻のようなものなのだ。でも、いきなり自分の自尊心を消すというのは無理な気がする。感情を消そうと思っても消えないように、自尊心も消そうと思っても消せない。
よし、わかった。埋葬しよう!
自尊心は消せない、なら埋めてしまえばいい。
20万円のビジネスセミナーに
そうして私は自分の自尊心を埋めに、西新宿へ向かった。ちょうど私はその頃、交渉術を身につけるために生まれて初めて20万円も投資してビジネスセミナーに通うことにしていた。K藤先輩に散々ダメ出しをされ、必死に勉強していたのだ。そのセミナーは西新宿の高層ビルで行われていた。
そのセミナー会場に入る前に、私は、少し立ち止まって、そのビルの下に自尊心を埋めることにした。
(ここが私の自尊心のお墓)
そう決心して、セミナーを受講するためにビルに足を踏み入れた。
そして埋めた自尊心に誓った。「この高い自尊心は、持っていてもおかしくないくらい私が立派になった時、きっと掘り返してあげるから!」と。私の自尊心は今も、西新宿にある、とあるビルの下に眠っている。