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 勤務時間が不規則だし、24時間稼働しているコールセンターだと夜勤も頻繁にある。コールセンターの勤務体系はシフト制で組まれていて、朝から出社する日もあれば、昼や夜から会社に行く日もある。だから生活リズムなんてバラバラになってしまう。

 こんなふうに心や体を病む要素がいっぱいのコールセンターでは、働いているだけでサバイバルだ。自分で自分を守るしかない。

「私は謝罪するプロだ」作戦にでる

 そこで私が考え出したのが、「私は謝罪するプロだ」作戦だった。

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 例えば50万円のお金を借りているお客さまに怒鳴られて、謝らなければいけない時は、この一謝りが50万! と金額に換算する。

 道端で見知らぬ人にいきなり「50万あげますから私に謝ってください」って言われたら、たくさんの人が謝っちゃうんじゃないだろうか?

「ごめんなさい」と謝ることをお金に換算するのは、まさに心を売る感情労働。でもただ理由もなく謝罪を強要されるよりは納得できる。

©iStock.com

 プロのスポーツ選手が、アマチュアの選手と違ってものすごくストイックな食事制限やトレーニングに耐えるのは、もちろん結果を出すためでもあるけど、自分が「プロ」だと思っているからじゃないだろうか。「プロ」とは、それでお金をもらう。たとえお客さまに理不尽な言葉で罵られたって、「私は督促のプロだ、これで食べてるんだ!」と思えば仕事のうちだと割り切れる。

 プロ意識を持つこと。これは他人のためではなく自分の心を守るためにも役立つ一つの手段なのだ。

エース・イケメンM井さんのメントレ

「え? お客さまのクレームですか? ボクは全然、ストレスなんて感じたことないですね」

「マジですか!?」

 中途入社でコールセンターに入ってきたM井さんは、さわやかな容姿のイケメン。まだ20代の若手だけど、コールセンターの中にある「クレーム対応専門チーム」に所属して日々クレーム対応に従事している。今ではセンターで一番の処理数を誇るエース的存在だ。

 お客さまの電話を最初に受けるのは、主に電話オペレーターだけれど、お客さまのクレームがオペレーターに耐えられないほどキツイ場合や、交渉がこじれてしまった場合には私と同じ立場の「サポート」をする社員が対応する。でもそれでも対応できなかったり、さらに難しい要求をしてきたりするお客さまはM井さんたち「クレーム対応専門チーム」の社員が電話を代わって交渉することになっている。

 彼らは常に十数件のクレームを抱えていて、お客さまからの罵声を浴びない日はない。時には1本の電話で2~3時間ひたすら怒鳴り続けられることもある。

 しかも謝るだけで終わらないのが、この督促というお仕事の難しいところ。怒鳴られながらも、最終的にはお客さまを説き伏せて入金をしていただかなければならないのだ。

 お客さまの中には「馬鹿野郎!」「ふざけるなテメェ!」とか「ブス! 不細工!」(電話じゃ顔も見えないのに……)といった罵詈雑言を口癖なのか、と思うほどいちいち会話に挟みこんでくる人もいる。

 理不尽なことを言われて、きっと大変だろうな。そう思っていたのに、突然M井さんから「ストレスを感じない」と聞かされて私はビックリした。