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また一人ダメに……

 ある日、お昼休憩に抜ける途中、ふと私がオペレーターブースの一角を通りかかった時のこと。

 区切られたブースに座る一人のオペレーターの女性が、はらはらと涙を流しながら電話をしていた。どうやらクレームを受けてお客さまに怒鳴られている様子。お客さまの罵声はオペレーターのヘッドフォン越しでも聞こえてくる。

(うわっ、大変!! だっ、誰か!)

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 私が慌てて手を叩くと(コールセンターでは別の社員に助けてほしい時、手を叩いたり振ったりして合図をする)すぐに男性社員が飛んできてオペレーターからヘッドフォンとマイクを取り上げて電話を代わってくれた。

 泣いているオペレーターは別の女性社員が付き添ってコールセンターの外へと連れていく。でも、彼女の周りにいるオペレーターはちらりと彼女を目で追った後、何事もなかったように電話を続けている。もうコールセンターではこういった出来事は日常茶飯事なのだ。

(また、一人ダメになったなぁ――)

 ぽっかりとひとつ空いてしまったブースに注がれるのはそんな冷やかな視線だった。

「N本さんごめん」去っていくオペレーターさんたち

「もうムリです、ごめんなさい……。会社に行けません」

「○○というオペレーターの夫なんですが、妻がうつ病と診断されまして……。本日付で仕事、辞めさせていただけませんでしょうか?」

©iStock.com

 出社して朝イチで取った電話で、オペレーター本人やご家族から退職の申し出を受けることも珍しいことじゃなかった。

 入社して以来所属していたキャッシングの債権を専門に回収する「男子校」から、このクレジットカードの回収を行う部署に異動になった時は、正直とっても嬉しかった。

 でも実際、異動してみると、そこで行われていたのは、おおげさに言うと人の消費や使い捨てのような労働だった。

 オペレーターは全員がパートタイマー、アルバイト、派遣社員といった非正規雇用のスタッフで構成されている。コールセンターの離職率は高く、オペレーターは定期的に募集される。けれど最初の応募で30人が採用されても研修を終える段階では20人になり、配属されて2カ月ほどで約10人前後に減ってしまう。

 彼女たちは、個人差はあるけれど1日に200件から300件の督促の電話をかけて、折り返しでかかってくる電話を取ってくれている。中には当然クレームもあって、電話を取った瞬間にいきなり「馬鹿野郎! お前らが督促状を送ったせいで家族に借金がバレた! どうしてくれるんだ!」と怒鳴りつけられることも珍しくない。

 こういった理不尽な要求にも、オペレーターは感情的に反論することを許されず、自分自身は悪くもないのに謝らなきゃいけない。