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「お客さまにありがとう、と言われる仕事がしたいです!」

 ちょうど私たちがOLになる少し前、巷では「愛され」という言葉が大流行していた。「愛されコーデ」「愛されメイク」……私たち20代のOLにとっては、誰かから愛されて評価をされることが存在の証明のようなものなのだ。

 督促なんて仕事は世界で誰からも愛されない。そういえば私は就職活動中に馬鹿の一つ覚えのように、

「お客さまにありがとう、と言われる仕事がしたいです!」

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 と言って面接を受けていた。もちろんこの会社を受ける時もそう言ったのだけれど、「お金を返してください!」なんていう電話がかかってきて「ありがとう」なんて言ってくれるお客さまはほとんどいなかった。

不幸になる仕事

 督促という仕事が原因で、彼女は心を病んで仕事を続けられなくなってしまった。そしてそれが原因で結婚が決まっていた彼氏とも別れることになってしまった。

 仕事ってなんだろう? 

 お金を稼ぐために、生活をしていくために、しなければいけないものだけど、人生にとって仕事がマイナスになっちゃダメなんじゃないの? 仕事が原因で働けなくなるとか、幸せじゃなくなるというのはおかしいんじゃないだろうか。

 私たちは、お客さまに決して好かれない仕事をしている。私たちが「ご入金が遅れているので支払ってください」と電話をすることによって、不快な思いをするお客さまもたくさんいる。ある時、50代の女性に督促の電話をかけた際にこんなことを言われた。

「こんな人を不愉快にするような仕事、しない方がいいと思いますよ!! まじめに働きなさい、まじめに働くことだけを考えなさい!」

©iStock.com

 でもどんなにお客さまから嫌われたって、誰かがこの仕事をやらなきゃいけない。

 とはいえ、督促の仕事をすることで、同僚が体や心に不調を来してしまうことは、やり切れなかった。

 もう少しなんとかならなかったの? もう少し負担を減らせる方法があったんじゃない? とコールセンターで働く誰かが辞めていくたびに悔しく思った。

 よしじゃあ、いっちょ、実験しよう、と思った。

 幸いなことに(?)私は督促が苦手だった。自分で言うのもなんだけど、心も体もボロボロだった。

 私が督促できるようになれば、お客さまに言い負かされないようになって、お金をちゃんと回収できるようになれば、そのノウハウはきっと使える。

 私の実験結果で、A子ちゃんみたいに、督促のようなストレスフルな仕事で人生を狂わされてしまう人を一人でもなくすことができたら……。その日から私の「研究」が始まった。

 待ってろよ、私から同僚をたくさん奪っていった「督促」め、カタキは絶対に討つぞ。

督促OL 修行日記 (文春文庫)

榎本まみ

文藝春秋

2015年3月10日 発売