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黒塗りの街宣車で来社、包丁を突き付けて脅す…督促で遭遇した“恐ろしい債務者”たちの正体

『督促OL 修行日記』より #13

2021/02/14

source : 文春文庫

genre : エンタメ, 読書, 社会, 働き方

note

「昔は直接家に回収に行って、お客さんに家に閉じ込められるとかしょっちゅうだったよなぁ」

 な、なんと……! ちなみにこのO野さんはまだ30代なので、昔と言ってもそんなに昔のことじゃない。

包丁を突きつけられて脅されて……

「家に連れ込まれてどうしたんですか!?」

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「そりゃあ包丁突きつけられて脅されたりしてさぁ……」

 身を乗り出して聞く私に、平然と恐ろしいことを答える。すると周りの先輩方も「うんうん」とうなずき合っているではないか。なんだこの会は、濃すぎる。

©iStock.com

「わかる。私もお客さまの家に回収に行って、玄関開けたら裸で男が包丁持って立ってたことがあるわ。もちろん即逃げたけど」

 と、またまた恐ろしいことをさらりと言いながら、焼酎をボトルキープしているのは私の先輩のK藤さん。

「O野さんもK藤先輩もご無事でなによりですが……、ちなみにそういう時はどうやって切り抜けるんですか?」

「そうだな、逆なでしないように気をつけることだな。そういうお客さまは天気にも影響されるくらいデリケートだから、まともな時とそうじゃない時があるんだけど、あ、まずいって時はすぐ逃げる」

 O野さんがそう言うと、今度はK藤先輩がグラスをかたむけつつ答える。

「まずは落ち着くことね。好きなようにしてもかまわないけど、後で絶対おんなじことアナタにしますよ、って言って解放してもらったことがある。勝負はビビったらそこで負けなのよ」

先輩たちの督促テクニック

 た、頼むから警察呼んでくれよ! と心の中で叫ぶ私。お酒も入り、先輩方もだいぶ舌が滑らかになってきた、ころあいを見計らって、私はずっと知りたかった皆さんの督促のテクニックについて聞いてみた。

「え、えーっと、ちなみに当時やってた早く回収するための工夫とかってあるんでしょうか?」

「俺はお客さまの毎月の支払い日を、給料日の前日に設定してたな。他の会社はたいてい給料日の少し後とか、当日に設定するから。給料日前にしておけば絶対に払えないからすぐに督促の電話ができる。他の会社の奴らより先にお客さん、つかまえられるからな」

 テ、テクニックっていっても黒過ぎるわ!! 使えるかっ!

 ちなみに支払い日というのはお客さまのお給料日の少し後に設定することが多い……まともな会社は……だけど。

「私は後輩の女の子に督促させてたかなぁ~。昔、回収は男性社員ばっかりやってたから。女の子に思いっきりかわいい声出させて督促させると意外とおじさんたちはコロっと払ったりするのよね」

 そう答えるのは元消費者金融、現債権回収会社のR子さん。年齢は40歳近いらしいけど趣味は体を鍛えることというナイスバディの美魔女。

「今は女性の督促が主流になっちゃったから使えないけどねえ」

 と愚痴りながら手酌で空になったビールグラスを満たしていくR子さん。そ、それはそれでどうなんでしょうか……。

 飲み会も終盤、先輩方に聞かせていただいた濃ゆいお話は、度数の高いお酒以上に強烈で、私は若干くらくらしていた。でも皆さん本当に昔は大変だったようだ。なんだか今のコールセンターで働いてるのに仕事辛いとか感じてた自分が恥ずかしくなる。そんな私の耳に、先輩方のこんな呟きが飛び込んできた。