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「血の通った熱い悪口求む」ストレスフルな職場で身につけた“言葉の刃”をはね返す意外な方法

『督促OL 修行日記』より #15

2021/02/21

source : 文春文庫

genre : エンタメ, 読書, 社会, 働き方

note

経験で身につけた督促術

 また、お客さまとの交渉の効率を上げるためにはなるべく使う言葉を決めておいた方が良かった。お客さまとの交渉の中で、一番短く、一番わかりやすい言葉を抽出して付箋を作り、目に見える場所に貼っておいた。焦った時でも付箋を読めばスムーズに対応ができる。

 それから、お客さまに聞き返されることがないように、自信があるようにゆっくり丁寧にしゃべることにした。相手にしっかり伝われば、一人にかける交渉時間を短縮することができた。

 こうして、自分の頭で考え、人から学んできたことを組み合わせた結果、私はオペレーター平均の倍の数のお客さまに電話をかけられるようになった。履行率が低くても、電話をかける件数を増やせば回収金額は増える。

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 仕事をしていると、どうしても正攻法では歯が立たない場面がある。だけど、そういう時にも意外と裏道が用意されていたりする。もし、どうしても「ココができない!」という壁を感じているとしたら、その壁を乗り越えようとするのもいい。でも、もしかしたらどこかに穴があるかもしれない。正攻法で行かないのはずるいかもしれないけれど、弱者には弱者の戦い方があるのだから。

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 最近、すぐに辞めていってしまう新人さんを見ると、もったいないなぁと思ってしまう。たしかに配属された部署に行って「だまされた!」と思うこともあるかもしれないけど、一度、だまされてみるのも実はそんなに悪いことじゃないかも。「この子、督促大丈夫かな?」と思うような子でも、「もう無理です」「嫌です」と言い続けるのをなだめ続けて督促を続けさせるうちに、ものすごい才能を開花させてあっという間に上にあがっていってしまうこともある。打たれ弱かった新人さんでも、督促を続けているうちに別人のように逞しくなることもある。

 思わぬ部署に配属されてみるのも、自分の不得意な分野でもがいてみるのも、意外な化学反応につながることがあるのかもしれない。

心の通り魔

 私は昔っからコミュ力が低くて初対面の人とはほとんどまともにしゃべれなかった。そして、繁華街を歩くと、なぜか必ずキャッチセールスか宗教の勧誘に声をかけられた。その確率たるや100%である。ただ、何回ひっかかっても断ることが下手だった。

「すいません~いまエステのモニター募集してるんですけどぉ」

(ひっ、きゃ、キャッチセールスだ!)

 目の前に茶髪にスーツという、ホストのような男性が立ちふさがる。

「す、すいません、今時間ないんです」

「大丈夫すぐ終わるから~」

「い、いいです」

「景品もありますから、パンフだけでも見て!」

「……え、あ、じゃ、じゃあパンフレットだけ見たら行きますから」

「ほら、このプランなんですけどすごくお得で! いいでしょ~」

「は、はい……」

 こんなやり取りの後、数十分説明をされて「もうちょっと詳しく説明させて」と建物に連れ込まれそうになる。

 この時点でやっと、やばい! と思い「やっぱりいいです!」と断って逃げようとすると、必ず、「ここまで説明させといて、ふざけんな!」とか「はぁ? こいつ、わけわかんねえ。キモいんだよ!」と最後に思いっきり心に突き刺さるような、捨て台詞を言われる。

 こういう人たちを私は心の通り魔と呼ぶ。