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「血の通った熱い悪口求む」ストレスフルな職場で身につけた“言葉の刃”をはね返す意外な方法

『督促OL 修行日記』より #15

2021/02/21

source : 文春文庫

genre : エンタメ, 読書, 社会, 働き方

note

 昔の私は口ゲンカが苦手だった。お店でお会計が間違っていても言いだせなかったし、だめんずの彼に一方的にヒドイことを言われても反論できなくて黙って耐えていた。その時の自分の嫌だという気持ちを、どういう言葉にして相手に言えばいいのかわからなかった。

 でも今は私にはお客さまにもらった言葉の数々を記録した「悪口ノート」もある。私の悪口のボキャブラリーはここ数年で一気に豊富になった。お店の人への文句だってちゃんと言えるようになった。日ごろ同僚が苦しめられているクレーマーと同じになってしまうから、もちろん理不尽な怒り方はしないけど。

血の通った熱い悪口、求む

 督促の仕事を知ってもらいたいと思ってブログを書き始めて、それがきっかけでインターネットでコラムを書かせてもらうようになった。すると、その分ビックリするくらいたくさんの悪口を書きこまれるようになった。最近はSNS経由でわざわざ匿名で悪口を書いたメッセージを送ってくれる人もいる。

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 以前の、督促の仕事に就く前の私なら確実に心が折れていた。でも、今は大丈夫だ。こんなの直接お客さまに罵られるのに比べたら全然ぬるいじゃないか。私の督促するお客さまはもっと血の通った、熱い悪口を言ってくれる人ばかりだ。

 ちなみにインターネット経由で送られてくる悪口ももちろん「悪口ノート」に記録している。たくさん集まったら、ぜひとんでもないご褒美を自分に与えようと思っているので、どんどん送ってほしい。

©iStock.com

 私は、ある時気がついた。

 古戦場のようなコールセンターで働くうちに、いつの間にか自分の体にはたくさんの言葉の刃が突き刺さっていた。でも、その一本を引き抜くと、それは自分を傷つける凶器ではなく剣になった。その剣を振り回すと、また私を突き刺そうと飛んでくるお客さまの言葉の矢を今度は撥ね返すことができた。それから、仲間を狙って振り下ろされる刃からも仲間を守ることができるようになった。そうか、武器は私の身の中に刺さっていたのだ。

 仕事をする中で誰かから傷つけられることはたくさんあったけど、そのおかげでできるようになったこともたくさんある。今まで私が先輩やお客さまからもらってきたのは、これからより強く生きていくための武器と盾だったのだ。

督促OL 修行日記 (文春文庫)

榎本まみ

文藝春秋

2015年3月10日 発売

◆『督促OL修行日記』を1回目から読む。

「血の通った熱い悪口求む」ストレスフルな職場で身につけた“言葉の刃”をはね返す意外な方法

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