弱者には弱者の戦い方がある
入社当時、私はお客さまに督促をして入金の約束を取り、その約束を守ってもらえる確率がコールセンターの他の社員に比べて低かった。
私のお客さまの履行率(入金の約束をしたお客さまが約束を守って入金してくれる確率)は5割で、コールセンターの平均の6割を下回っている。お客さまに強く督促できない私に頭を抱えた上司は、私を強く督促できる男性社員二人の席の間に座らせて勉強させようとしたこともあった。オセロじゃないんだから、強く言える人二人で挟んだってそうそう変わらないと思うんだけど……。
たしかに、督促という仕事はコワモテの男性社員の方が向いていると思う。男性社員が強い調子でお客さまに督促をすると、やっぱりお客さまは入金をしてくれることが多い。長年督促をしてきたとある回収のベテラン男性社員の履行率は7割近かった。
でも、私だったらそんなふうに強い調子で督促をされたら、確実にそのカード会社を嫌いになってしまうと思う。二度とそのカードを使う気にならないかもしれない。
督促していると、お客さまはなぜお金を支払えなくなってしまったのか理由を聞かせてくれる。なかには「携帯でゲームしすぎた」といった(それはどうなんだ……?)と思う理由もあるけれど、それもある意味、人間らしいと思う。
そこまで踏み込んで事情を聞かせてくれるお客さまに向かって、厳しく言って督促することは私にはどうしてもできなかった。
改めて基本に立ち返る
(じゃあ、強く言えなくても、督促で成果を出す方法はないのかな?)
ある時私は考えた。いやあるはずだ、正攻法で行けないなら裏道を狙えばいいのだ。
そして私が見つけたのは、基本に戻って電話をかける件数を増やすという方法だった。どんなに交渉技術を磨いても、お客さまが約束を守って入金してくれる確率はコワモテ男性社員の持つ7割が最高だ。平均が6割なので、1割しか伸ばせないことになる。だったら履行率が5割の私でも、入金約束をするお客さまの母数を平均より4割増やせば、履行率7割の長年コールセンターで働いてきた交渉の達人とも回収成績で並べることになるじゃないか!
そうして、どうやったら他人より4割多く電話をかけられるか、という作戦を立てた。
多く電話をかけるためにはお客さま一人一人の交渉時間を短くしなきゃいけないので、時間を取られてしまうクレームはなるべく起こさず、もし起きてしまっても短時間で鎮静化しなきゃならない。その対策として考えたのが、怒鳴られてもすぐに立ち直る方法や、怒鳴られても動じず交渉を続ける方法だった。クレーム対応チームの先輩に聞いて、上手にクレームに対処する方法も勉強した。