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 それ以前にも、松潤がコメディ適性を発揮した作品がある。

 嵐の初主演映画『ピカ☆ンチ LIFE IS HARDだけどHAPPY』(2002年)で、彼は“ボン”という役を演じている。川崎で純和風居酒屋を経営する父を持ち、登場人物たちが住む団地の中ではお坊ちゃん扱いをされている“ボン”。Tシャツをインした独特なスタイルで、好きになる女の子も超個性派。その子の笑顔を見るために、原宿でクレープ屋を開くという謎の行動に出る。全体にコメディ色の強い映画だが、中でも松潤演じる“ボン”は完全な“お笑い枠”だった。

『ピカ☆ンチ LIFE IS HARDだけどHAPPY』(2003年)

 ちなみに『ピカ☆ンチ』のDVDに特典として収録されたメイキング映像には、「釣り堀で人生について考えていたら長靴を釣り上げてしまう」というシーンの撮影で、エサがついていない竿でなぜか本当に魚を釣ってしまいNGになり、照れ笑いしながらガッツポーズする松潤の姿が収録されている。こういう「真面目にやっているのに、なぜか面白くなってしまう」というのが松潤なのだ。古沢氏がそれを知って松潤とともに新たな家康像を作ろうと考えたのなら、かなりの慧眼と言える。

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懸案の長ゼリフについては…

 そして古沢氏の脚本の魅力でもあり、俳優にとっての関門である長ゼリフについて、かつて松潤は高い能力を証明したことがある。

 型破りな弁護士・深山大翔を演じた『99.9』シーズン1(2016年/TBS系)の最終回。裁判の最終弁論で松潤は、冤罪事件は多くの人を不幸にすること、刑事裁判で最も許されないことを熱弁した後に、一気にこう語る。

「日本の刑事裁判における有罪率は99.9%。なぜ、このような高い数字が出るのでしょうか。それは、国家権力である検察官が起訴を決めた内容は正しいはずであると誰もが疑わないからです。ですが、本当にそうなのでしょうか。我々はそこに隠されているかもしれない本当の事実を見逃してはならないのです。どうか皆さん、目で見て、耳で聞いて、考え、自分の答えを探してください。起こった事実は、たったひとつです」

松本潤 ©文藝春秋

 深山の父は冤罪によって人生を奪われている。心の底から湧き上がるその怒りを抑えて、静かに吐露する名場面に視聴者は大いに胸を打たれた。

 また、2013年7月13日放送の『あたらしあらし接近中』(フジテレビ系)でチャレンジした「松本潤は8分間の長セリフを一発成功できる?」という企画も忘れられない。

「稽古日数は1日」、「監督はフジテレビの重鎮の河毛俊作氏」、「共演に大物女優・大地真央」、「場内アナウンスが先輩の東山紀之で、“パーフェクトな男”とあおられる」というプレッシャーをかけられながら、「5重人格という設定+超難解な長ゼリフ」に挑戦。しかし松潤は1度も噛むことなく、5重人格も完璧に演じ分けて8分間の長ゼリフを成功させた。いま思い出しても鳥肌が立つ集中力である。