1ページ目から読む
2/3ページ目

 世間ではどちらも“ヤクザ”と一括りにするが、暴力団業界の捉え方は違う。盃が重要なのだと前出の指定暴力団幹部は強調する。

「“盃がない奴ら”とは、六代目山口組の司忍組長から盃をもらった子分、直参ではないということだ。例えば某組が山口組を抜けると、その組の親分は破門、絶縁の処分となる。しかし某組の組員らは山口組から盃をもらっていないので、直接の処分は受けない。組員だけが山口組内の別の組、別組織に戻った場合、そこの組長、会長になる人と縁を結び、盃を交わすことになる。戻っているのは三次団体の組長ら下の者たちだ。戻るとまた一から始めることになる。処分された二次団体の組長らは山口組には戻れない」

仮盃と本盃、意味も重みもまったく違う

 親が何を言っても飲み込み、覚悟があると示すのが盃ごとであるが、「盃には重いものと軽いものがある」と、今は堅気となった暴力団の元組員は柔らかい声で語った。

ADVERTISEMENT

「自分の場合、稼業に入ったのも舎弟になったのも、その先輩が好きだったからだ。盃をもらうきっかけは人それぞれだが、“その人が好き、仲が良い、世話になっている”というぐらいの軽いものも多い。だが、軽かったはずの盃がどんどん重くなっていく。

 親兄弟に迷惑をかけても組ごとを優先するのがヤクザだとわかっていたが、見えない線を知らない間に越えていた」

写真はイメージ ©iStock.com

 組が移籍、親が変わったことで組を見限り、自分からやめたいと告げ、破門された。

「自分のように見限るのもいれば、ケンカでやめる奴もいる。行方をくらまし飛んでしまう者もいるが、辞めたいと言う勇気すらない奴だ。見つかった時の方が怖い。破門の処分を受ける方がよほど楽になる」

 破門状が回ることで、警察はその組員が破門されたと認知するが、破門状をもって明確に線が引かれるわけでもないのが現実である。この元組員も「組は辞めても、先輩との付き合いは続いている」と話す。

「自分の舎弟盃は流れや勢いもあり、行ったのは居酒屋だ。だから盃の準備はしてない。盃ごとには『仮盃』と『本盃』があり、組内、身内の盃ごとはこのような仮盃も多く、事務所で誰かを立会人に立てる程度で終わる場合もある。自分もそうだったが、本盃はせず仮のままのことも多い。正直、仮も本物も盃に違いはないと思うが、組織としての盃ごととなると、本盃となり意味も重みもまったく違う」