12月にその年の新直参に行う山口組の本盃
山口組では12月13日の事始めや納会で、その年の新直参に盃ごとを行うのが通例になっている。3月に組に入れば12月の事始めまでは仮盃だ。映画などで目にする盃ごとの映像は本盃であり、出席者は後見人、検分役、立会人、取持人、推薦人、見届人ら。媒酌人が口上を述べ、介添人とともに作法と流儀に則った儀式を執り行う。
口上を述べる者に決まりはなく、大きな盃ごとでは組の慶弔委員が行ったり、口上の上手い名の通った媒酌人が呼ばれる。有名なのは東京浅草に本拠地を置く丁字家会だ。流儀はそれぞれの組や会で代々習い伝えた流儀である。小さな盃ごとでは組の中で口上ができる者が行うが、年々やれる者は減少傾向にあるらしい。
「盃ごとは誰が口上を行うかがステータスでありブランドでもある」と話すのは、有名な媒酌人で親子盃を行ったという暴力団幹部だ。大切に保管している盃の写真を見せてもらうと、盃の裏には真ん中に寿の文字が朱色で記されている。その周りには盃ごとが執り行われた日付、親と子の名前、媒酌人の名前も墨で書かれている。懐に納められた白い盃はヤクザの証、侠(おとこ)の証となっていた。
盃ごとは、自分の命が自分のものでなくなること
「式は紋付袴姿で決められた場所に胡坐で座る。親分から盃が下げられると子分は背筋を正し、正座に直る。盃を前に媒酌人が『終生、侠道に精進せねばなりません。覚悟が定まりましたら、一気に飲み干し、懐中深くお納め下さい』と言い終わると、盃を飲み干し、半紙に包み懐にぐっと差入れ納める。これで終了と思われているが、納めた盃はこの後一度、媒酌人に預けることになる。預かった媒酌人が名前を墨で書き込むため、誰の名前があるかが盃ごとの価値を上げる」
有名な媒酌人の中には、この大役を大変名誉、身に余る光栄として「侠道上の生命をかけて」「生命の儀をかけてあい勤めさせて頂きます」と口上する者もいる。「盃は自分の命が自分のモノでなくなる。それだけの覚悟で腹を括るからこそ、この盃に価値があり、媒酌人の名前がブランドになる。分裂に出戻りとこんなことが続くと、媒酌人は命がいくつあっても足りなくなる」と前出の暴力団幹部はこぼす。
軽いはずが重くなっていく盃もあれば、ずっしりと重いはずが軽くなっていく盃もある。それが暴力団業界の今の流れであり現実だということを、山口組分裂騒動は裏付けている。