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「新宿から10分」の町
方南町の交差点に戻ろう。交差点から方南通りを少し東に歩く。この区間の方南通りの歩道には屋根がかかっていて、商店街になっている。路地を曲がればその先にも昭和の面影もいくらか残っているような味わい深い商店街だ。チェーン店もいくつかあるにはあるが、個人店の八百屋や本屋などがあって、自転車で商店街を抜けていく人もいれば、ベビーカーを押して歩く若い母親も。学校帰りの時間になれば、子どもたちの姿もあるのだろう。
そんな商店街の中に、小さな方南町駅の出入り口がある。これこそ歩いていても気が付かない。ごちゃごちゃと店や住宅が集まっている町の中に、無理やり作ったのかと思うような出入り口だ。それでも地元の人はよくわかっているようで、当たり前のようにこの出入り口を使っている。住んでいる場所によっては、また駅を降りてからの買い物などの用事次第では、交差点に出るホーム終端側の出入り口よりはこちらのほうが便利なのかもしれない。
そんなわけで、この小さな出入り口からまたホームに戻って方南町をあとにした。もちろん新宿まではわずか10分。すべてが新宿方面に直通するわけではなく、中野坂上で折り返す電車も多いからその点は少々悩ましい。が、新宿のほんの近くにこんな町があるのは悪くない。荻窪に向かうつもりが方南町についてしまっても、それはそれでいいのではないかと思った旅であった。
写真=鼠入昌史