「それまでは暴力団に対する捜査といっても、一般人と同じ恐喝や傷害などの刑法犯、覚醒剤取締法などの特別法犯として取り締まるしかなかった。その後、暴対法など法整備が進められたが、中でも暴排条例はヤクザに対する規制の決定打だった」
実際に、暴力団の縮小は警察庁の統計にも表れている。2008年までは全国の暴力団構成員は4万人以上いたが、全国で暴排条例が整備された2011年を境に激減。2012年は約2万8800人となり、2019年には約1万4400人にまで減少している。
そんな法規制の影響で、『ヤクザと家族』でも、シノギを失った柴咲組の幹部が、夜間の海中でウナギの稚魚を密漁するシーンがある。「本当にヤクザが密漁などするのか」と思う人もいるだろうが、「水産業が盛んな地域では組織的な密漁を資金源としている暴力団組織も存在している」(警察当局の幹部)のだ。
さらに、柴咲組はご法度としていた覚醒剤の密売にも手を出すこととなる。このタイミングでの参入も現実を反映している。国内では近年、暴力団が関与したとみられる大量の覚醒剤が押収されている。「近年のシノギはシャブ(覚醒剤)が中心」と断言する別の指定暴力団幹部もいる。いまや流通量が急増して、末端価格が急落しているほどだ。十数年前は1グラムにつき約9万円だったが、2019年は約6万4000円といわれている。
警察当局の幹部は、次のように解説する。
「近年、価格が下落しているのは需要に対して供給が過多となっているためだ。暴力団が海外から大量に持ち込み資金源としていることが窺える」
【2】「スマホも買えない」は本当か?
もう一つ、象徴的なシーンが、山本が出所後、スマホは自分で契約できないと知らされ、後輩からスマホを提供されるシーンだ。
暴力団が「反社会的勢力」と位置付けられたのは、山本が刑務所にいた2007年の政府の犯罪対策閣僚会議だった。暴排条例の全国施行もあり、経済界からの排除が進められた。携帯電話の契約と同様に、銀行口座開設や不動産賃貸、車の購入など契約を伴う場合は、業者側が策定した「暴力団排除条項」に基づく約款を交わすこととなった。