映画『新聞記者』の監督・藤井道人の最新作が1月29日に公開された。『ヤクザと家族 The Family』である。
本作は2010年代に全国各地で暴力団排除条例が施行されたことにより、「絶対悪」「反社」として社会から排除されていったヤクザの現在を題材にした作品だ。時代の変化とともに彼らを取り巻く環境はめまぐるしく変わっていった。
変化の間で葛藤してきた「ヤクザ」という存在と、その家族――藤井監督はその風景をどんなふうに描いたのだろうか。本人に話を聞いた。(全2回の1回目/#2へ続く)
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『新聞記者』チームで制作
――原作ものが中心の日本の映画界にあって、『ヤクザと家族 The Family』は、藤井監督のオリジナル脚本の作品です。『新聞記者』の制作チームで今回、なぜヤクザ映画を撮ろうと思ったのでしょうか?
藤井 『新聞記者』を作ったあと、プロデューサーの河村光庸さんと次はなにをやろうという話になって、2人で「こういうものをやりたい」と企画を出し合ったんです。河村さんも僕も、「オリジナル脚本でなにができるだろうか」と常に考えているんですけれども、そのとき、お互いの興味が重なり合ったのがヤクザでした。
それで、ヤクザ同士の抗争を描く従来のヤクザ映画ではなく、暴排条例以降の、追い詰められたヤクザの姿を描く映画を撮ったら面白いんじゃないかとなって、企画を進めることになりました。
――この映画では1999年(第1章)、2005年(第2章)、2019年(第3章)、それぞれのヤクザとその周辺の人たちが描かれていきます。綾野剛さんが演じる「山本賢治」は、第1章で暴力団組員になり、第2章で兄貴分の身代わりに刑務所に入って、第3章では暴排条例で様変わりした社会に困惑します。
「明日の自分の姿かもしれない」社会の残酷さを見せたかった
藤井 最初のシナリオでは、主人公の「山本賢治」が刑務所から出てきてからの2019年の部分だけでした。ヤクザでは食えなくなり、携帯電話も契約できない、銀行口座も作れない、家も借りられない、だからといって組を辞めても「5年ルール」(5年間は組員とみなされる)がある――そんな時代になっていた。
でも、そこだけを描いてしまうと、どういうふうにヤクザが社会から排除されていったのかがわからないですよね。全国で公開するエンターテインメント映画として考えたときに、その過程を見せずに、一方的にヤクザとして生きる人たちを「かわいそうでしょ?」と見せる映画にはしたくなかった。
もしかしたら、なにかをきっかけにして自分も排除されるかもしれない。追い詰められたヤクザの姿は、明日の自分の姿かもしれない。こうした社会の残酷さを見せたかったんです。