暴力団組員は自らの立場を偽って契約を交わすと約款に違反したことになる。例えば銀行口座を開設すると、時価数百円のプラスチック片であるキャッシュカードをだまし取ったとして詐欺容疑で逮捕されるケースが一時期、相次いだ。マンションの賃貸契約、車の購入などでも同様だ。
しかし、関西地方に拠点を持つ指定暴力団の幹部は次のように明かす。
「スマホは数台使っているが、今は自分名義のものは持っていない。全てうまくクリアできるようになっている。銀行口座も一時期は解約させられたが、同様の形で複数の口座を持っている」
警察当局の幹部も、次のように実態を語る。
「車の購入については一時期、ヤクザに代わって購入して提供するような悪質なディーラーが暗躍していた。こうした事案についても捜査を進めたのだが……」
確かに社会生活を維持するうえでの必要なインフラからも暴力団の排除が進んでいるが、一部には排除のさらに上を行くしたたかさを身に着けている実態もあるようだ。
【3】「半グレ」はあれほど台頭しているのか?
映画では、2019年になると「半グレ」グループが街を仕切り始め、暴力団の向こうを張り、夜の街の仕切り役として繁華街を闊歩している。これも現実社会を反映したシーンと言えそうだ。
近年、衰退して行く暴力団業界とは別に新たな反社会的勢力として、「半グレ」と呼ばれるグループについて警察当局が警戒を強めている。暴力団のしきたりに嫌悪感を持ち、暴対法や暴排条例での規制外で活動できるため、あえて暴力団には加入しない勢力のことを指す。東京を拠点に活動している別の指定暴力団幹部も、私の取材に次のように語っていた。
「ヤクザになる若い衆が少なく、半グレとなる者が多いのはヤクザ業界の縮小も原因の一つ。半グレが大きな事件を起こし、マスコミの報道が過熱していたころは、暴排条例などでヤクザが経済的に苦しくなっていたころと重なる」
警察庁は現在、新興勢力である半グレについて、「準暴力団」と位置づけて組織形態、構成メンバー、資金源などについて情報を収集、データベース化して実態解明を進めている。
現実には、半グレが暴力団の“下請け仕事”をしているケースが多いが、生意気な若造が暴力団に反抗するシーンは単なる映画の終盤の盛り上げ役というより、新たな反社会的勢力の登場を示唆しているリアルな描写といえる。
リアルな暴力団の今が描かれた『ヤクザと家族』は、これまでのヤクザ映画にはない視点で描かれたノンフィクション性のある作品と言えそうだ。