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 何気なく腹に目をやると、頑丈にさらしが巻かれている。刃物を通しにくくするためだろうか。週刊誌を下敷きにし、その上からさらしをぐるぐる巻きにしていた。おまけに白いさらしには、2丁のピストルが差し込まれている。薄明りをバックに黒光する拳銃を差した北条がこちらを睨みつけたまま、文字どおり仁王立ちしていた。女社長が振り返る。

「まさに凍りついたというのは、あのときのことです。たぶん北条は、水谷功会長が暴力団を雇って自分を襲わせてくる、とでも考えたのでしょう。まさに臨戦態勢ととっていました。本当に撃ちあうつもりのようで、すごい形相をしている。それはもちろん恐ろしかったですよ。けど、あのくらい切羽詰まっていると、逆に落ち着くものかもしれませんね。それから3時間ぐらい、彼をなだめすかしたりしながら、話し合いをしました」

 まるでVシネマに登場しそうなワンシーンである。

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封印された銃撃事件

 ことの発端は、地元三重県内の暴力団組織「愛櫻会」幹部とのトラブルだった。水谷建設では04年から05年にかけ、地元であるJR桑名駅前の再開発を計画し、かつての「パルビル」を18階建ての「サンファーレ」に建て替えようとした。もともと北条自身が他のゼネコンと組んで駅前の再開発計画を進めていたのだという。そんな折、水谷建設がビルの解体を始めた。そうして愛櫻会の幹部と衝突したのである。再びトラブルに巻き込まれた取引業者が恐怖体験を思い起こす。

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「はじめ水谷会長の意向を受け、この件で奔走していたのは、元三重県知事の北川正恭事務所の秘書だった森岡一智さんでした。北川事務所を辞めた森岡さんが、こうした水谷会長の裏仕事を手伝うようになっていたのです。そのなかの一つである桑名駅前の再開発で、地元の愛櫻会と揉めたわけです。しかも、あろうことか森岡さんは、その対抗手段として山口組系の有力組織に相談した。それで愛櫻会の北条が、『許せん』となった。そこから森岡さんや水谷会長をつけ狙うようになったそうです。相手は本気でした。で、『私に免じてちょっと待ってください』と、となりすしかないでしょう。取りあえず金で解決しようとなんとか一時しのぎをしたのです」