――急に実物の人間が演じているキャラのコマ撮りが出てくるシーンも、見里監督ならではの演出のように感じます。この人間キャラを演じているのは監督のご友人やお知り合いだそうですが、ああいったアイデアは当初から出ていたんですか?
杉山 あれはピクシレーションというコマ撮り技法なんですが、最初の企画段階ではなかったアイデアなんですよ。監督が制作を進めるうちに、「ひとさじの現実味と表現の奥行きを持たせたい」と考え、取り入れたみたいです。
また、セリフのない物語で登場する人間を、視聴者に“憎たらしい”と感じてもらうには、人形ではなく実写が効果的だと考えたんだと思います。短い尺で緊迫感のある起承転結を付けるのが難題なんですが、第3話に登場する猫を実写にしたのは、その難題を解決するという意味合いの効果もかなりあったでしょうね。猫を羊毛フェルトで表現していたら緊迫感が弱まるうえ、制作時間も莫大にかかってしまっていたはずなので。
杉山Pが選ぶお気に入りエピソードはエンタメに振り切った回
――では杉山さん一押しの回を伺えればと思います。
杉山 どれも捨てがたいですが、しいて言うなら第5話の『プイプイレーシング』ですね。第1話からけっこう深いテーマがあるということを見せていた作品だったわけですが、この第5話はそういう小難しいことを考えずに見られる、エンターテインメントに振り切ったエピソードでしたから。あ、にんじんのところで止まっちゃうのか、という可愛らしい笑いもあるし、このストレートなエンタメ回は「待ってました!」って感じがありました。
あとは、第3話でモルカーの車内に目が出現するシーンがありますが、あれはびっくりしました……。コンテには載っていたのでその設定も知ってましたが、出来上がったのを見た時に「うわっ」って(笑)。構造的にはおかしいんだけども、ああやって説明を簡略化するのが、短尺で効果的に展開していくテクニックですよね。
――ちなみに、現在の放送中のシリーズのみで『モルカー』は完結なんでしょうか? それとも続編シリーズの構想もあるんでしょうか……?
杉山 続編シリーズも作りたいと考えていますが、まだいろいろな部分が整っていないんですよ。でも、やりたいとは思っています!
(文=TND幽介〈A4studio〉)
≪杉山登氏プロフィール≫
制作会社に所属しながらドラマの助監督を務め、1992年の鈴木保奈美主演ドラマ『愛という名のもとに』にて監督デビュー。1995年テレビ朝日に入社。監督・プロデューサーとして「ガラスの仮面」や映画「ロッカーズ」などを手がけた後、アニメのプロデューサーにシフト。2006年から何作もの劇場版『ドラえもん』や劇場版『クレヨンしんちゃん』をプロデュース。2018年シンエイ動画に出向。現在、企画営業担当の執行役員を務める。
その他の写真はこちらよりぜひご覧ください。