2000年代初頭。日本では「モーニング娘。」をはじめとした「ハロー!プロジェクト」(ハロプロ)のアイドルがJ-POP界を席巻していた。そのオタクたちを描いた漫画家・劔樹人(つるぎみきと)の自伝的コミック『あの頃。男子かしまし物語』が、今泉力哉監督のもと映画化された(2月19日公開)。冒頭、松坂桃李演じる主人公・劔が、ふとしたきっかけで松浦亜弥のMVに釘付けになっている姿は、「推し」を持つ人々すべてに心当たりがある場面ではないだろうか。
「僕自身は、何かに思い切りハマる、というタイプの人間ではないんです。でも、心が弱っている時に何かキラキラしたものに救われる、ということって誰しもありますよね。何かにハマっていく時って、そういうことが多いんじゃないかな、と思います」
劔がCDショップでハロプロのコーナーを物色していると、店員のナカウチ(芹澤興人)にハロプロファンが開催しているイベントに誘われる。イベントにいたのは、プライドが高くてひねくれもののコズミン(仲野太賀)、石川梨華推しのロビ(山中崇)など個性豊かな面々。新しい仲間ができた劔は、ノリで“恋愛研究会。”というバンドを組み、青春の日々を謳歌する。
「結局“推し”って何なのか、というと、好きな人ではあるんだけど、恋愛感情とも違うと思うんです。たとえばアイドルを推していても、性的な目で見ている人ってほとんどいないんじゃないでしょうか。いうならば子どもの頃の、何も欲が絡んでいない『好き』というか……。推しが“尊い”という言い方もありますよね。好きな人やものを、昔に比べて圧倒的に公言しやすくなった。むしろ、好きなものを好きと言うのが恥ずかしいこととされていたのはなぜなんだ、と思います。何かを好きだということは、本来素晴らしいことなんです」