これからは自然な姿を肯定的に捉えよう、と
これは私にとって、五感の拡張であり、「新しいラグジュアリー」の発見でした。このころお茶をすごく好きになったのですが、お茶って茶葉や淹れ方によって味覚のものすごく繊細なところに入ってきてくれるんですね。五感ってまだこんなにポテンシャルがあったのか、と自分でも驚きました。
自分がありのままでいられる空間の心地よさや、肌に負担をかけない衣類の工夫、あるいは繊細な虫の声が聴こえてくるような耳の気持ちよさ――そんな五感の拡張を探求することが本当の贅沢だと思って、ラグジュアリーの定義が自分のなかで大きく変わりました。
――「贅沢」の新しい定義ですね。
塩谷 そうしたとき、今までコンプレックスだらけだった自分の身体も認めてあげられるようにもなったんです。私たちは生まれてこのかた、自分の顔だったり日本の経済不況だったり、常にコンプレックスを刺激されるようなマーケティングに囲まれて育ってきたけれど、これからは自然な姿を肯定的に捉えよう、と。
新著『ここじゃない世界に行きたかった』は、私が「あたりまえに生きるため」の言葉を取り戻す過程で見出した、さまざまな美しい出会いや生活の愛おしいものたちについて綴った一冊です。環境問題や、人権問題などにも触れていますが、これはなにも「意識の高い人」だけのものじゃない。自分の五感を取り戻していく中で取り戻した、他者や地球への付き合い方について綴っています。混沌とした今の時代を生きる中での、それでもわずかにある希望や楽しみをポジティブにシェアしていきたいですね。
(インタビュー写真撮影:文藝春秋/杉山拓也、他は本人提供)
塩谷 舞(しおたに・まい)
文筆家。1988年大阪・千里生まれ。京都市立芸術大学美術学部総合芸術学科卒業。ニューヨーク、ニュージャージーを拠点に執筆活動を行う。2009年、大学時代にアートマガジン『SHAKE ART!』を創刊。2012年にCINRA入社、WEBディレクター・PRを経て、2015年に独立。会社員時代より、WEBメディアの執筆、企業の広告企画、SNSマーケティングに多く関わり、「バズライター」の異名をとる。2017年、オピニオンメディアmilieuを立ち上げ、自身の執筆活動を本格化。note定期購読マガジン『視点』にてエッセイを更新中。
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