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重い量刑の一因は遺族感情への配慮か

 事故の被害者側についても触れておかなければならない。石川が無罪を主張して起訴事実を争ったことが、事故の被害者遺族らにとっては責任逃れに映ったようだ。

 20年10月2日、検察側の論告に先立って行われた被害者側の意見陳述で、事故で亡くなった堀内の妻は「(法廷では)謝罪の言葉を聞きたかったが、被告は、自分は被害者だ、などと言い、胸をえぐられるようだった。命を返してほしい。今後は人を傷つけたり悲しませたりしない生き方をしてほしい」と声を震わせた。人一人死んでいるのに責任を認めないのか、という素朴な感情の発露だった。陳述後、石川は、堀内の妻に深々と頭を下げた。

 続いて意見陳述した店舗兼住宅を破壊された被害者は「過失がないとか、自分も被害者だとか、自分のことしか頭にない。執行猶予ではだめ」とさらに厳しかった。

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※写真はイメージ ©️iStock.com

 判決によると、石川が加入していた任意保険により堀内の遺族には1億1000万円を支払う示談が成立。建物被害者側とは示談交渉継続中だが、5000万円を超す損害賠償金が支払われたという。

 石川にくだされた禁固3年、執行猶予5年の判決は、同様の交通死亡事件と比較すると重い。被害者側が厳しい意見陳述をしたからといって裁判所の有罪無罪の判断に影響することはないとみられるが、量刑には一定の影響があったかもしれない。

第2ラウンドは

 かくして、かつて「特捜検察のエース」と呼ばれた男と古巣検察との闘いの第一幕は、元エースの完敗となった。だが、当の石川はさほどショックは受けておらず、さばさばとしているようだ。

「それほど、落ち込んでいない。かといって、かんかんに怒っているわけでもない。しょうがないね。(裁判所は)ちゃんと判断しないで、という感じ。控訴については弁護団と基本的に同じ考えだった」(小林弁護士)

 今年夏以降に審理が始まるとみられる控訴審では、一審判決について論理則、経験則と証拠の矛盾を主張するだけでは展望がない。頼りにしていた技術専門家証言を一蹴されているだけに、一審では審理されなかった新たな証拠がないと厳しい戦いとなる。

控訴審は今年の夏以降に審理が始まるとみられている ©️文藝春秋

 弁護側は「控訴審において、本判決の不当性を明らかにし、被告人に対する無罪判決を勝ち取ることとする」と自信満々だ。何か、状況を変える「隠し玉」があるのだろうか。