技術プロフェッショナルが証人に
結局、公判の最大の争点は、(1)アクセルペダル裏に残った圧痕が、石川の踏み込みによって生じたものか、(2)警察が、石川がアクセルペダルを踏み込み続けた根拠としたEDRデータは信用できるか、の2つとなった。いずれも、専門技術知識にかかわる問題だ。
検察側は、警視庁の寛と、トヨタ自動車お客様関連部主査の吉田一美、タイヤ構造力学、交通事故解析の専門家である技術コンサルタントの山崎俊一の3人を証人に立てた。
吉田は、トヨタで車両の完了検査業務やアフターサービス、事故対応などを担当。制御用コンピュータープログラムの開発などに携わった経験はなかった。トヨタはこの事故で、警視庁にEDRデータの解析ツールなどの機材を貸しており、吉田は警視庁が行う再現検証や車の機能検査などに「作業補助」として立ち会っていた。
一方、弁護側は、元独立行政法人「交通安全環境研究所」(現独立行政法人自動車技術総合機構)リコール技術検証部リコール技術検証官(みなし公務員)で技術コンサルタントの出川洋を証人に立てた。
1972年横浜国大工学部機械工学科卒。日産自動車でエンジン開発、制動プログラム開発に携わり、日産退職後の2011年にリコール技術検証官。16年に退官するまで約50件の調査に携わった自動車技術の専門家だ。
EDRデータの信用性をめぐる攻防
寛は「本件車両は、センサー及びコンピュータ内部の制御CPUなどに異常が出た場合、燃料や電気の供給が遮断・抑制されるよう設計されており、車両の構造上、制御CPUなどの異常によりエンジンやモーターの回転数が異常に上昇する(暴走する)ことはない」とし、自らが作成した「鑑定書」をもとに、石川が右足から降車しようとして誤って左足でアクセルペダルを踏み込んだため、車が急発進した、と主張。
アクセルペダル裏にあった圧痕も、石川がアクセルペダルを全開に踏み込んだ状態で衝突したことを裏付ける、とした。吉田もこの証言に沿う証言をした。
これに対し、出川は、石川側の依頼で、車載のドライブレコーダーや法廷に提出されたEDRの解析データを詳細に検討した結果として、「事故車はブレーキ制御コンピュータなど電動パーキングブレーキの不具合で、ブレーキが解除され、または制動力が弱まり、クリープ現象で発進。その後、急加速し途中でパーキングブレーキがかかったが、そのまま暴走した、との結論に至った」などと証言。
さらに、「EDRデータでは、衝突直前の約5秒間、事故車のアクセル開度が100%になっているが、同データには、同時にブレーキペダルを踏んだとみられる記録もある。左足でブレーキペダルを踏みながら、同時にアクセルペダルも開度100%で踏み込むという、説明のつかない相互に矛盾するデータが認められる」として、EDRデータの信用性に疑問を投げかけた。