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「あなたが計測したあと、あなたが私にこの座席に乗ってくださいと指示されましたね」

「はい」

「座った後に足はどうなってましたか」

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「足は届かないということで」

「あなたは、その場で目で見ているでしょう」

 立ち会い検事がここで遠慮がちに異議を唱える。

「言い合いの様相。必要であれば、弁護人からお尋ねいただくか」

 裁判長も「冷静に」と諭すが、石川の追及は続く。80歳とは思えない迫力だ。

「それで、あなた、背後にカメラマンがいて、右背後から私の足の写真を撮ったのは見ておられますね」

「はい、計測しながら」

「その写真が、全然出てこないのはどうしてですか」

「わかりません」

「だって、実況見分を、調書をあのとき作ったでしょう。そのとき撮った写真が、警察に要求しても全然出てこないんですけれども、どうしてですか」

 検事がたまりかねたように異議を申し立てる。

「証拠開示のやり取りを警察官に求めるのは意味がない」「意見を押し付ける尋問になっている」

 石川は尋問を撤回したが、追及を続ける。

「あなたの鑑定書には、1月24日に実際に私がその現場にいて、足の長さを見て、どういう状況かをあなたが見ていながら、その内容は鑑定書に盛られなくて、その後の2月8日に改めてあなたが仮想運転者を使ってやったのは、それを鑑定書に書いているのはどうしてですか。私が実際にいたのに、どうして私のことを書かなかったんですか。あの実況見分を」

「それは、記憶に基づく再現で出来上がった資料なので、これを鑑定書の疎明資料として使うことはちょっとできないという判断です」

※写真はイメージ ©️iStock.com

足が届くかどうか、自分の目で確認しなかった裁判官

 石川側は、公判前整理手続きの段階から、事故時の運転体勢について裁判所による再現見分を求めてきたが、裁判所は検察の反対を受けて判断を留保し、双方の立証が終わった段階で見分を行うかどうか判断するとした。

 そのため、石川側は改めて、シート位置などを事故車と同じにした同型車を使っての実況見分を自前で行い、その写真とビデオを裁判所に提出した。裁判所は、このビデオと警視庁が事故現場で行った見分ビデオを法廷のモニターで検証した。

 弁護側のビデオについては、筆者が傍聴席から見た限りでは、画面が暗く、撮影角度のせいもあるのか石川の左足とアクセルペダルの距離感はよくわからなかった。先に証拠調べをした2月8日の仮想運転者による再現見分のビデオも同様だった。

 結局、裁判所は、自らの手による再現見分を見送った。自分の目の前で石川の運転体勢を確認すれば、アクセルペダルに足が届くかどうか、仮に石川が足を縮めたりしても一目瞭然のはずなのに、それをせず、回りくどい検察、弁護側双方の再現記録をもとに判断するのか、不可解だった。