いきなり派手な装束の北大路欣也が現れて「こんばんは、徳川家康です」と語りだす。このオープニングに新鮮な衝撃を受けたか、それとも脱力感を覚えたかは、人それぞれだろう。
家康の日本史講義が終わると、青年時代の渋沢栄一(吉沢亮)と、従兄の喜作(高良健吾)がすぐ現れた。徳川幕府最後の将軍となる一橋慶喜(草彅剛)の前に飛びだし、馬上の慶喜に「幕府はこのままでは瓦解します」と進言する。
巧いね。大河も朝ドラも主人公の子役時代の描き方が難かしい。幼少期をだらだら流していると、見る者は飽きる。まずは主人公の吉沢くんと健吾くんのフレッシュな表情を見せる。初回視聴率二〇%(関東)達成の決め手はこれかな。
「渋沢と慶喜のこの出会いから、日本は近代に向けて動きだすのです」のナレーション。あとは大河の常道を踏めばいい。栄一は四歳。渋沢家の屋敷の周囲は一面の桑畑だ。桑を食べるカイコたちが映る。
「さて、ここは武蔵の国の北にある血洗島(ちあらいじま)」と解説が入る。血洗島。凄い地名でしょ。まるで横溝正史の世界である。獄門島とか八つ墓村とかね。埼玉県深谷市血洗島。ドラマには出てこないが、かつて地元ではチャーラジマと呼んだ。
利根川に近い寒村だ。しかし“おカイコ様”が食する桑の葉による養蚕業と、衣類を染める藍で、渋沢一族は豪農となった。
一族では「中の家(なかんち)」と呼ばれる家の長男、栄一は人一倍の腕白で、人一倍のお喋りだ。父(小林薫)は厳しく、母(和久井映見)は優しい。快活で好奇心が旺盛な栄一少年は、近接する藩の牢にいる罪人(玉木宏)と会話を交わす。「何にも無い所だなあ」と砲術家の罪人がいう。それは失礼な話だ、と栄一。「おカイコ様がいるだんべ」。
国を憂える砲術師の言葉が、少年の心に残る。オランダ語で「我は憂国の士である」と訴える蓬髪の男を演じる玉木宏が格好いい。そして栄一の「だんべ」言葉が懐かしい。私は小学四年生の後半から中学一年の一学期まで、親の転勤で深谷に住んでいた。
冬になると、上州のからっ風が吹いて校庭を土砂が舞い荒れる。そう、桑畑の向こうには群馬の赤城山がくっきり見えた。住民は驚くと「てえーっ」と叫ぶ。『あまちゃん』の「じぇじぇ」と同じ驚嘆語だ。ビックリの最上級は「て、て、て、てぇ!」だった。
豪農とはいえ、そんな寒村で育った栄一と、水戸藩主の息子である慶喜の少年時代を、初回は対照的に描いた。深谷と水戸の二都物語だ。養蚕で栄える血洗島と、血なまぐさい攘夷に揺れる水戸藩。二つが交錯するなかで、栄一の幾度かの転向と『論語と算盤』、すなわち道徳と金儲けが共存する思想が生まれた。
『青天を衝け』
NHK 日 20:00~
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