※本記事にはドラマ『となりのマサラ』(NHK総合)のネタバレが含まれています。ご注意ください。

◆◆◆

 NHKの地方局制作ドラマは独特の「味」がある。ぼんやり、ゆったりとその土地が映され、大きな事件があるわけでもなく、人と人のふれ合いを静かなカメラワークが追っていく。単館上映の小品映画みたいな。でも地方とはいえNHK、単館上映映画によくある「失った時間を返せ」と叫びたくなるようなことは、まあない。「ぼんやり見てるうちにジンワリ泣ける」、今どきそのタイプのテレビドラマは少ないので貴重だ。

ADVERTISEMENT

『となりのマサラ』は、一昨年福岡局で制作され、昨年九州沖縄で放映された。それが「東京ドラマアウォード2020 ローカル・ドラマ賞受賞!」をひっさげてついに全国放映だ!

『となりのマサラ』主演を務める佐藤寛太 ©AFLO

 ロケ地に住んでたこともあり、期待が大きすぎた。福岡に帰省中のカメラマンの青年(お決まりの、親との関係に問題を抱えてるという設定)が、鬱屈して海辺で遊んでる在日ネパール人たちにつっかかってもみ合いになり「お前ら日本から出てけ」みたいなことを叫ぶ……という出だしからもう「あー、こういう話か」と。ここから主人公がいかに在日外国人、というよりも「他者とどういうふうに関わっていくのか」を描くんだろうなー。と想像した通りに話は進む……というよりも進まない。ささいなことを丁寧に描くというのでもなく、単に話が進まない。しかし、こういう話によくある「何か事件が起こり、それをきっかけにみんな目ざめ、考えが変わる」みたいなことはない。イヤな人は出てくる。「私はいいんだけど、やっぱり迷惑よね」とか言う「反外国人おばさん」や「違法外国人派遣業のヤクザ」が印象的なので、「あの辺にそういう住民が多いように見えるよこれじゃ」と、元住民の私は要らぬ心配をする。

 それでも遅々としながら話は進み、青年はネパールの人たちと心を通わせ、親にも心を開く。ここまでは「文科省制作の啓発映画」みたいで、これは地方局制作ドラマとしてはあんまりデキがいいわけでもない、けどナントカ賞を獲ったのはこういう反差別的内容だからか、と思ったのだ。ドラマが終わる2分前までは。

 エンドロールも流れたから完全に油断していた。

 ネパール人たちにつっかかっていったあの海辺で、こんどはネパール人たちと一緒になってふざけあう主人公。あーねー、こういう終わり方ね、でもきれいごとよね。そこに男の怒声が場面を切り裂く。

「るせーんだよ、おめえら自分の国帰れよ!」

 男の顔は見えない。ぼう然とその声を聞く主人公。そこでぽつんと終わる。

 ああ、このラスト、これを見せたかったのか。ここまでゆっくりしすぎだと思ったが、この2分で許す、というぐらいのラストシーンであった。すべてはここから始まり、終わらない。

INFORMATION

『となりのマサラ』
NHK総合
https://www.nhk.or.jp/fukuoka/drama/masala/