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優秀な人材が使い捨てられてゆく

 それもこれも、株式上場すれば一攫千金で、企業家もVCも大儲けという大前提があるので、若き起業家でこれはと思う人を青田刈りするような世界がある一方、きちんとしたマネジメントのできる大人が事業を切り盛りするような華のない事業は見向きもされず投資金も集まらないという現状は、単に世間を知らない若い人たちをいいように食い物にしている面もあるのでしょう。

 結果として、スタートアップで上手くいかなかった人たちの墓場のような人材市場ができ、大事な20代から30代前半を上場による一攫千金という人参で馬車馬のように走らせられた、健康と精神を害した経営者や技術者の吹き溜まりができます。上場基準は甘くなり、創業の時点から粉飾決算をしていたような会社がコネを駆使して上場しておカネを集める傍ら、使い捨てられた優秀な人材が経歴書を汚しながら夢破れて転職を繰り返していくさまは見ていて悲しいものがあります。

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 本田圭佑さんのように、人物本位で経営者を鑑定し投資を行うスタイルは素晴らしいと思いますし、溝口勇児さんにも言い分はあり、こんなはずじゃなかったと思うところは大でしょう。ただ、今回のWEIN社だけで数十人の若者が雇われ、最長でも9か月で職を失ったり、自ら退職したりしています。

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 そういう事業環境だから仕方がないね、スタートアップっていうのはリスクがあるんですよ、という話で終わらないような、もう少しかかわる人たち全体に救いのあるような着地になって欲しいと思います。ベンチャー企業というと聞こえはいいけれど、湯婆婆が出てきて「ベンチャーなんて贅沢な名だね。いまからお前の名は新興零細企業だ! いいかい、零細中小企業だ、返事をするんだ新興零細中小企業」なのですよ。

 要するに、ベンチャー企業が中小企業のだらしない親父を量産してしまっている面は否めませんので、そういわれるのが嫌なのであればガバナンスをしっかりし、コンプライアンスは守りましょう。約束だよ。

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