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北朝鮮大使館を襲撃した“謎の集団”…「事件はやらせだった」実行犯の韓国系アメリカ人が新証言

2021/02/28
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 また、アン被告によると、FBIが自由朝鮮メンバーへの逮捕状を出す前の2019年3月中旬、FBI当局者がホン氏の仲介を経て、アン被告の自宅を訪れ、マドリードで起きたことを聞いたという。そして、その後しばらくして、FBIは北朝鮮のエージェントがホン氏とアン氏の命を狙っているとの警告を両氏に与えたという。

イラク戦争にも派遣された元海兵隊員

 ビジネス向けSNSのリンクトインに掲載されているアン被告のプロフィールによると、アン被告は2000年から6年間は米海兵隊に就役した。特に2005年から2006年まではイラク中部の激戦地ファルージャで収容施設のチーフアナリストやキャンプ・ファルージャの情報分析官を務めていた。

 スペインの捜査当局は、襲撃事件が事前に用意周到に準備された、計画性の高い犯行だったと判断。あたかも軍部隊のように行動しており、プロ集団によるオペレーションだったとみていた。このため、アン被告のような海兵隊で訓練を受けた人物が襲撃に加わっていたとなれば納得がいくことだった。

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 しかし、アン被告は「メディアで報じられてきた内容に反し、私は戦闘の専門技術があるからと言ってマドリードに来るように頼まれたのではなかった。私は海兵隊入隊後に標準的な訓練を受けたことを除き、特別な戦闘訓練を受けたことはなかった。エイドリアン(ホン氏のこと)は、北朝鮮外交官がパニックに陥った場合、彼らを落ち着かせるために私に現場にいてほしいと頼んでいた」と主張した。

クリストファー・アン被告(Linkedinの本人プロフィール写真より)

 さらに「海兵隊員としてイラク戦争に派遣されていた時、極度の緊張下における人々の面倒や安全を確保する任務に従事していた」と説明。このため、自由朝鮮でも、コミュニケーターとしての役割や人々を落ち着かせる役目をしばしば担っていたと述べた。北朝鮮の人々は脱北時に、当局に見つかってしまうとの被害妄想にかかり、恐怖や不安に陥ることがあるからだという。

 アン被告は偽証罪に問われることから、裁判での証言が真正で事実と相違ないと明言している。その言葉通り、証言が事実ならば、自由朝鮮は北朝鮮外交官の誘拐事件を装った亡命劇を強行しようとしていたことになる。

「亡命を希望していた北朝鮮外交官が寝返った」

 そもそも脱北を目指す北朝鮮エリートは、他国に亡命することで、北朝鮮に残した家族が殺されることを恐れる。このため、拉致を装うことを望む者もいるという。

 しかし、今回の襲撃事件時には大使館内にいた大使館職員の妻が脱出し、スペインの警察官が大使館に駆け付ける事態にまで発展。さらに、事件時には大使館内の電話が鳴り続いていたことから、ソ氏が恐れおののき、亡命を希望してホン氏を招いたものの、土壇場で寝返って亡命を固辞したとアン被告は主張している。

 こうしたアン被告の主張は、これまでの自由朝鮮の主張と通じるものがある。自由朝鮮は襲撃事件後の2019年3月26日、北朝鮮大使館襲撃事件への関与を認める声明の中で、今回の事件は「攻撃(アタック)」ではなく、「大使館に招かれた」と述べて正当性を訴えていた。

 さらに声明は「私たちは、自らの説明を立証できる証拠を持っている。私たちの助けを求める人々を守り、そして、他者を守るために多大なリスクを負っている人々を守るために、私たちは現時点では、今回の出来事についてこれ以上は共有できない。私たちは今後も、極めてセンシティブな任務を世界中で続けていく」と述べていた。

自由朝鮮リーダーのエイドリアン・ホン氏。現在の行方は分かっていない(米議会中継専門テレビチャンネル「Cスパン」の映像を筆者がキャプチャー)

 この声明の中の「私たちの助けを求める人々を守ること」とはソ氏を指しているとみられる。

 北朝鮮は襲撃事件から9日後に、外務省報道官の談話として事件を「重大なテロ行為」と非難し、「FBIと反共和国(北朝鮮)団体が関与しているなどの説も広まっており、注視している」と表明した。この言葉通りなら、北朝鮮は自由朝鮮による「拉致を装った亡命劇」について、少なくとも当時は気づいていなかったことになる。自由朝鮮にしてみれば、北朝鮮が騙され、してやったりの気分だっただろう。

 事件の主犯格で「自由朝鮮」を率いているエイドリアン・ホン氏は、米カリフォルニア州サンディエゴ出身の在米韓国人2世で1984年生まれ。偶然にも、金正恩氏と同じ年齢層である。