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エイドリアン・ホン氏とは何者か?

 ホン氏は名門エール大学在学中の2004年3月、脱北者を支援し、北朝鮮人権運動を行う非政府組織(NGO)の「LiNK」(Liberty in North Korea=北朝鮮に自由を)を仲間とともに設立した。LiNKはこれまでに1000人以上の脱北を成功させてきた。朝鮮日報によると、当時、エール大学ではエリート脱北者の金賢植(キム・ヒョンシク)氏が教鞭をとっており、ホン氏は北朝鮮の人権問題などで感化されたという。

 ただ、ホン氏は2006年12月には、中国・瀋陽のアメリカ領事館に保護を求めた脱北者6人を、LiNKの仲間2人とともに支援している最中、中国の公安当局に拘禁され、国外追放された。

 2009年には「ペガサスプロジェクト」という別のNGOを始めた。ペガサスとは、ギリシャ神話の有翼の天馬。自由朝鮮の前身として知られる亡命政府団体の「千里馬(チョンリマ)民防衛」の「千里馬」とは、翼を持ち1日に千里走るという朝鮮の伝説の馬だ。これらの名称からもホン氏の信条がうかがえる。

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 この千里馬民防衛は、2017年2月にマレーシアのクアラルンプール国際空港で金正恩氏の異母兄、金正男(キム・ジョンナム)氏が殺害された後、正男氏の息子のハンソル氏とその母親、妹の3人をマカオから安全な場所に移動させることで一役買った。アン被告がハンソル氏らをエスコートした。

マレーシアで殺害された金正男の息子、キム・ハンソル氏(左)を保護するクリストファー・アン被告(自由朝鮮のサイトより)

 ホン氏は2009年には世界各国の革新家が名を連ねる「TEDシニアフェロー」にも選ばれ、その後は何度もTEDのイベントで登壇している。

 2011年にはアラブ首長国連邦(UAE)アブダビの新聞に「アラブの春は、北朝鮮にとってのドレスリハーサルになると考えている」と述べ、同年リビアに足を運んでいる。朝鮮日報によると、ホン氏は2011年頃、カダフィ大佐追放後のリビア暫定政府の樹立を手助けするため、米政府とコンサルティングの契約を結んだ。そして、同氏のコンサルティング業務にはしばしばCIAが絡んでいたという。

「自由戦士」か、それともただの武装集団か

 ホン氏は2011年12月に国際情勢などを扱う米フォーリン・ポリシー誌に「北朝鮮を自由にする方法――平壌の犯罪政府を倒すときは今だ。その方法がこれだ」と題する論文を寄稿している。その中で、「大量の亡命は常に、革命と体制崩壊への先駆けとなる」と訴え、脱北者や亡命申請者の支援に国際社会が取り組むよう説いている。

 そして北朝鮮国内で民衆が立ち上がれば、国内での革命が可能と訴えている。

 脱北者や亡命者の支援を手掛けてきた自由朝鮮は、2018年11月に駐イタリア北朝鮮大使館から姿を消して行方不明となったチョ・ソンギル駐イタリア大使代理(当時)の韓国への亡命にも関与しているとみられる。

 なお、この大使代理夫妻の10代の娘は、両親と行動をともにすることができずに北朝鮮本国に送還された。その後の安否が心配されている。

 ロサンゼルスの連邦地裁裁は4月9日にアン被告のスペインへの犯罪人引き渡し可否を決める審理を開く予定だ。

 アン被告の新証言を受け、改めて自由朝鮮を「自由戦士」とみる向きが強まるのか。それとも依然、在外大使館さえも襲撃する単なる武装集団とみるのか。今後の国際世論の反応にも注目が集まる。