「ペットロス」とは何なのだろう
ミントが亡くなって1週間後、冷蔵庫を整理していた妻が「こんなの買ったっけ?」と手にした「カブ」を見て、反射的に涙が出た。それはあの日、スーパーで「カブのすりおろしなら食べられるかも」と、買ったものだった。カブで号泣する自分に戸惑いながら、「これはマズい」と思った。
どうすれば「ペットロス」を乗り越えられるのか。その衝撃を和らげる方法はあるのだろうか。
インターネットで調べてみても、なかなか自分が必要としている情報には辿り着けなかった。この経験が本稿の出発点である。
そもそも「ペットロス」とは何なのだろうか。
「私は『ペットを亡くしたときの飼い主の深い悲しみの反応と立ち直りまでの全容』と定義しています」
そう語るのは、ペットロスに詳しい帝京科学大学の濱野佐代子准教授(アニマルサイエンス学科)だ。
ペットを失った直後に、深い悲しみや孤独感、罪悪感といった感情を抱くことはごく自然な反応だ。問題はその期間が長引き、さらに睡眠障害や「何もする気が起きない」といった状態に陥ってしまう場合だ。
ある調査によると、ペットを亡くした飼い主のうち、死別直後で59.5%、2カ月後でも56.7%の人が、「医師の介入を要する精神疾患」のリスク群と判定されている(北里大学獣医学部・木村祐哉氏らの「ペットロスに伴う死別反応から医師の介入を要する精神疾患を生じる飼主の割合」2016年)。
ペットの死は悲しんでもいい
一方で前出の濱野氏は、次のように指摘する。
「誤解してはいけないのは、ペットロスは病気ではありません。大切な存在を失うという意味では、家族とか親しい友人を亡くすのと同じです。ただペットロスの場合、周囲の理解を得られにくい。ペットを亡くしてショック状態の人に対して、周囲が『ペットが死んだくらいであんなに悲しむなんて』という反応を示すケースも少なくない。ペットロスを『公認されていない悲嘆』と呼ぶ研究者もいます」
中には飼い主自身が「こんなに悲しむ自分はおかしいのでは」と思ってしまうケースさえあるという。
「まずペットの死は『悲しんでもいいんだ』ということを知ってほしい。カギとなるのは周囲の支えで、これを『グリーフケア(喪失の悲しみに寄り添うサポート)』と言います。その提供者候補として、同じくペットを亡くした人や心の専門家のほか、家族や友人、動物病院の獣医師や動物看護師、ペット仲間などが挙げられますが、実際にはペットを亡くすと動物病院やペット仲間とは疎遠になることが多いようです」(同前)